奇跡のデニム生地を手に入れた男、スロウガン 小林学。そして、メンズファッション界の“いま”を熟知する男、ファッションエディター 山下英介。ジーンズの謎を追った先に見えてきた、ちょうどいいジーンズとは? 後編です。前編はこちら
山下(英):こうして出会った、奇跡のデニム。小林さんから声がかかったとき、かたちにするなら、単なるレプリカジーンズに落とし込むのは違うなとは思っていました。
そこでいまのトレンドファッションのキブンを反映した、股上の深いサルエルパンツや、ゆったりとしたテーパードシルエットのトラウザース…そのあたりをイメージしてきましたが、この究極のデニム生地を見てしまったら、余計なギミックを盛り込むのはかえってもったいないな、と。小林さんの謎解きのエピソードのスパイス(麩菓子とかりんとう、そしてバター)が加わって、いま浮かんでいるのは、純日本製の “すうどん”、“白ごはん”というテーマです。
どんなおかずにも合う、究極の白ごはんデニムをつくりたいですね。Tシャツにもジャケットにも合う、どんなシーンでも使えるデニムパンツです。
小林:なるほど、いいですね。今回、アメリカの1800年代、ゴールドラッシュの時代の炭鉱の男たちが穿いていたジーンズの謎を追ってきたけど、目を転じてみれば同じ時代のヨーロッパでも、ワーカーたちが活躍していた時代です。ユーロワークのパンツは、かがみやすいように後ろみごろを大きくとった、いわゆるチャップリンのような独特のヒップラインになります。
そういえば、僕のコレクションに…、そうそうこれこれ。これ、まさに1800年代末のフランスのコーデュロイパンツです。すごくいい景色じゃないですか。
山下(英):いいですね。普遍的なシルエットなのに、このまま、いまのファッションに取り入れてOK。面白いのは、腰まで上げて穿くと品よく見えるし、下げて穿くとサルエルパンツのようなキブンでも穿けるというところ。いいシルエットだなあ。
小林:ヨーロッパのモノづくりは、日本のモノづくりに通じるものがあります。これだってワークパンツ、いわゆる野良着です。野良着なんだけど、当時は、スーツを仕立てるお仕立て屋に縫ってもらっていたんです。だから、ワークパンツなのに、お仕立て感がある。使いこんで破れても、つくろってまた穿く。そんなところも日本のモノづくりに通じます。
「デニム」の語源は、フランス語の「serge de Nîmes(サージ・ドゥ・ニーム)」と言われてるし、フランスのエッセンスを取り入れるのはいいですね。
山下(英):スラックスと、ワークウエアの中間。僕らのファッションライフスタイルにも、すごくハマってる。ユーロワークなデニムパンツ。
しかし、Amvaiでつくるなら、スラックス的な穿き心地も追及したい。例えば、裏地をどうするか…。当時はサスペンダーで穿いたけど、今だったらベルトルーフもあったほうがいいかな。それから、デニムといえば、ミミの仕様も気になりますね。ディテールは、凝りだしたらキリがないな…(笑)
気になるといえば価格もです。生地の価値としては、どのレベルの値付けになるのでしょう。
小林:そうですね…、ウールに例えるなら、カシミヤ100%と同じレベルです。名のあるメゾンで商品化しようとしたらパンツ一本10万円くらい付けてもおかしくないかも。
山下(英):なるほど。1800年代の技法で生まれた工芸品的な価値と洋服としての魅力が同居した、唯一無二の存在。今後、二度とお目にかかれないかもしれないアイテムなら、その価値はありますよね。
小林:100年前の技法でつくる、100年前のパンツのシルエットが、今、新鮮に思えるこの感覚。日本のモノづくりの神髄を見せつけるデニムパンツにしたいですね。
山下(英):穿いたら、100年前にタイムスリップできそうなパンツですね!
こうして、小林学と山下英介による、「ちょうどいいジーンズ」をめぐる密会は終了した。見えてきたのは、1800年代のユーロワークのDNAをもった100年前にタイムスリップできる、純日本製の「デニムパンツ」。この後、山下英介は、さらなる企てに着手することとなる。そのお話は、また別の機会に…。
「“ちょうどいい”ジーンズとは?スロウガン / 小林学とファッションエディター / 山下英介のくわだて【前編】」はコチラ