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Amvai Denim P001EM

明け方の空・深い海・デニムの藍。- ジーンズ追跡 Episode 5

俺とジェフは、1800年代のデニム染色の謎に思いをはせながら徳島へ飛んだ

その工場は意外にも市街地にほど近い国道沿いにあった。辺りは四国特有の、何かゆったりとした、形で言えばまるい柔らかな空気に包まれていた。正面玄関には藍で染め抜かれた看板が掲げられ風に揺れている。俺とジェフが車から降りると、初老の社長が出迎えてくれた。「話は聞いております。さあ中へ。」

我々はオーナーから明治時代から続く徳島藍や織物の歴史をそこでしばし学んだ。実は説明の最中、ゆっくり室内を見渡すと斜め右前方にある、何とも形容し難い青い生地に俺は目が釘付けになっていたんだ。ジェフも同様だった。アイツの口元の片方が上がるとそれは歴史的名品の証・・・である事がほとんどなのだ。俺とキュレイター・ジェフとの付き合いは長い。

オーナーの説明の後、「スイマセン、アノ・ネイヴィーヲ ミセテクダサイ。」 なんと、片言の日本語で口火を切ったのはジェフだった。オーナーはゆっくりとその小巻きの反物を手に取り、テーブルの上に広げた。

俺はこの30年、デニム地を見続けて来た。そんな俺ですら初めて出会う藍色であった。なぜ自分がここまで吸い込まれる様に見入ってしまうのか? その疑問を晴らしたかった。ジェフはさっきから小声で賛辞のスラングをブツブツ言い続けている。

「どうやら気に入っていただけましたかな? お二人は今までシャトルを使わない革新織機で織られた生地がご専門でしたかな? 我々の製造法は旧式です。ただただ旧式です。ではうちの職人が工場内をご案内いたします。あなたの疑問も、一巡すればきっと答えが見つかるはずです。」

我々はオーナーに会釈すると職人に促されるままに扉を開けた。その瞬間、俺とジェフはまたもや言葉を失った。今日2度目である。そこには大小様々な生地幅の旧式シャトル織機が正月の羽子板のラリーの様な音をけたたましく鳴らしながら動いている。その左右に揺れながら動く様はさながら宮崎駿アニメのヴィンテージ・メカを思わせる。このレトロで不思議な光景の秘密は、頭上を回転した金属棒があり、そこにベルトを掛け動力として織機を何台も同時に動かしているからなのだ。



「この動力の取り方で織ってるのはうちだけかもしれません。うちはテンションをかけずゆっくりゆっくり織っております。」

そうか、ふくよかな表面感はムラ糸の力だけではなく、超旧式織機での弱テンション織りの賜物だったのだ。1日の生産量を増やしたければ高速の革新織機でテンションをパンパンにはって織れば良いのだ。キズも出にくく画一的なデニムが安定供給される。それはそれで素晴らしいことなのだが、あの吸い込まれる様な優しい面持ちは高速織機では表現出来ない。宮崎駿的なレトロ織機でなければ・・・。



続いて我々は染色工房へと移動した。戦後から使い続けているというインディゴの瓶が埋まっている。俺とジェフはある1つの事に気づいていた。照明以外ほぼ電力を使用していないのだ。職人は藍かめをかくはんしながら語り始めた。

「徳島の藍染めはまず自生する蓼ありきで、これを発酵させる事で良質な藍玉がこの土地で作り出せるのです。そして鮮やかな紺色に重要なのがこの吉野川の天然水なのです。また、気温、湿度によって藍の機嫌(pH)が変わります。藍を働かせ過ぎても機嫌が悪くなります。一定の色を出し続けることは自然と向き合い続ける事なのです・・・。」




ここまで聞いて俺はオーナーに冒頭で見せてもらったアノ生地について質問した。

「あぁ、あれは色に深みを持たせる為に、3種類のトーンの、染め回数違いの、かせ染め糸を複雑に引き揃えて織っております。青空や深い海が一見、青だけの様でも色々なトーンで構成されているのと同じ理屈です。複雑な色ゆえ、その風景に感動するのです。』



ここまで聞いて、俺とジェフは同じ境地に至っていた。オリジナルの生地を作ってみたいという衝動である。アメリカンデニムへの深い理解の上に立ちながら、自然と対峙するこの純日本製の工場で自分のアイデアを試したいというその衝動。そして職人は笑顔でそれを快諾してくれた・・・。

帰りの車中、俺はジェフに語った。

「なあ、ジェフ。俺が企画の駆け出しの頃、先輩に教えてもらったことなんだが、生地を見た瞬間に何を作ろうかな? なんて思った生地は絶対に使うな! ホントに良い出会いをした生地は見た瞬間に作るべきカタチが生地の上に見えるんだよ。それが本当のデザイナーの仕事なのだと。ジェフ、俺は完全に見えたんだ。やるべきカタチが。ジェフ、この事を東京に帰ったら相談したいがいるんだ。普段は雑誌の編集者なんだが世界のメンズ服をユニークにコーディネイトするアイデアの持ち主さ。」

ジェフはニコニコしながら「manabu にすべて任せるよ。純日本製の空と海のデニム、完成したらうちの美術館に所蔵させてくれ。」

車は、四国の風景を楽しみながらゆっくりとしたスピードで、職人に聞いたうまい酒の飲める漁師居酒屋を目指していた。 

※すべての Episode は、こちらでご覧いただけます。
※この物語は事実にもとづいたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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Amvai.com Amvai Denim P001EM

¥58,000(税別)

100本限定。Slowgun 小林学氏とファッションエディター 山下英介氏により、徳島県の無形文化財・阿波正藍染のデニムを、ユーロワークパンツスタイルに仕立てた純日本製のデニムパンツ。