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STORY

ハイテク世代の過保護な足に。UGGのスニーカー

あの時代は過剰だった。

忌々しい受験戦争、やたら煩いテレビ番組のテロップ、女子高生のダブついたソックス etc...
しぼみゆく景気を誤魔化すかのように、世の中のあらゆるものが過剰だった。

広末涼子というタレントがポケットベルの広告塔として大ブレイクしたのもあの頃だった。街中のいたるところで彼女の等身大ポップが立ち並び、あちこちで盗まれ、いわゆる“お宝ショップ”で異常な価格で売られていた。

彼女がCMで履いていたスニーカーについての顛末も、皆さんご存じの通りの過熱っぷり。煽るメディア、価格の高騰、“狩り”という名の犯罪行為など、運動靴という概念からは想像できないような事象が次々と起きていた。

そしてその「ハイテクスニーカー」というプロダクトそのものも、あくまで私個人の感覚だが、過剰なモノに感じていた。
近未来のカッコ良さといえばそうかもしれないが、それまで革靴やコンバース等を中心に履いてきた自分にとって、
その見てくれはHRギーガーのエイリアンを彷彿とさせるものだったし、インスタポンプやディスクブレイズはもはやSFの世界。
あそこを押したら何が起こるのか!?などと異形のものを見る眼差しだった。


*画像はネコ・パブリッシングの雑誌『RAD』1997年4月号より。極太ゴシックの扇情的な見出しがいかにもこの時代である。

しかしそれもやがては見慣れてくるもので、雑誌の評判などに推されつつ、気になるモデルを見つけ、自分もハイテクを試す時が来た。

恐らく代官山だったと思う。あの頃は屋内だか露店だかわからないような小さなスニーカーショップが点在していて、新品だか中古だかわからないような商品がラップにくるまれて並んでいた。お目当てのモデルは見つからなかったが、何となくデザインの近いものを見つけ、試着させていただいた。

初めて履いたハイテクスニーカー。足を入れた瞬間の包み込まれるような快感と、雲の上を歩くような浮遊感。初めての心地よさに感動し、それまでの履かず嫌いを悔いた。しかしその機能性もまた、過剰だと思った。だって俺の足、こんなに甘やかしたらもう革靴履けないじゃん!と。

それから長い年月が経った。社会もファッションも色々と変化したけれど、あの過剰な時代の波がまた、寄せては返している。
ビッグシルエットの流行は本家ラルフローレンの「The Polo Big collection」として帰結し、グランジの再注目とともに、往年のロックTやフォトTがビックリするような高値で取引されている。

そして何より、「ヘッズ」というキーワードと共に再過熱するスニーカーブーム。定番のスポーツシューズメーカーは勿論、モード系のハイブランドや高級革靴メーカーまでが参戦し、しばらくずっとオーバーヒート状態だ。

そんな中、久しぶりにあの時のピュアな感動を思い出すような逸足と出会った。

それがUGGのスニーカー。あのシープスキンブーツでお馴染みのブランドによる、渾身のハイテクスニーカー。なんとなく噂は聞いていたけれど、2年ほど前に発売されたCA805シリーズは、ダッドスニーカー人気と相まって、既に洒落者たちの定番に。脱ぎ履き楽なジッパータイプのものは、スリッポン慣れした若者たちにも浸透しているようで、インスタグラム等でも度々目にしていた。


今回私が選んだのは、この春の新作である「WESTSIDER LOW WEATHER」。
ぽってりとしたフォルムが特徴的だけれども、いわゆる「ダッド」にありがちな広がった踵では無いので割とスッキリしている。カラーリングは複数種あるが、デザイン的には程々に落ち着いており、スエード素材が上品さを加えている。

しかし何より、超厚底のチャンキーソール。私のようなクラシック寄りのオジサンにはまさしく過剰な気がするけれど、果たしてどうなんだ?
実際に履いて鏡の前に立つと、なんだかとても新鮮な気分。例えばスウェット上下のようなシンプルなカジュアルスタイルを、文字通り“底上げ”してくれるような垢抜け感がある。オジサンが変に頑張らないで今っぽさを出すには、寧ろ丁度いいアンバイではないのだろうか。

そして履き心地について。とにかくクッション性の高いソールは、けっこうな厚底にもかかわらず足取りも軽くフワッフワ。アッパーと一体成型されたシュータンはソールと同じく極厚で、実に心地よく足をホールドしてくれる。足だけ高級羽毛布団に突っ込んでるようなこの感覚は、やはり過剰な気持ちよさである。これは我々ハイテク世代の過保護な足でも、しっかりと満足させてくれるだろう。何なら「ももえのくちびる」世代にも是非お薦めしたい逸品である。


ノームコアは図らずもファストファッションの支配を強め、次はコロナの禁欲ムード。
面白みのないトレンドに、気づかぬフリをしていたフラストレーション。

そんな今だからか、デザインも機能も主張してくるアイテムが、とても愛おしくなってきた。

Yasunori Nakadake

Used Bookshop Owner中武 康法

1976年宮崎県出身。大学入学と同時に上京。それから間もなくして、世界的な古書店街である神田神保町にて古書の道へと進む。10年以上の古書店勤務を続けるなかで、過去のファッション雑誌を顧みることの面白さと重要性を見出してゆく。そして2009年、同じ神保町の地に古書店「magnif(マグニフ) / http://www.magnif.jp」を開業。ヴィンテージマガジンを中心としたその品揃えは瞬く間に注目を集め、開業から今日まで多くのマスコミに取り上げられる。特にメンズファッション関連の品揃えには定評があり、服飾メーカー、デザイナー、ファッション雑誌編集者、そして多くの洒落者や趣味人たちが足繁く通う店となっている。最近ではアパレルショップ、百貨店などのイベント協力など、その活動の幅は更に広がりを見せている。