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STORY

買っちゃったよ2CV!


丸2ヶ月の自粛期間を通して僕がたどり着いた結論は、「マニアは強し」であった。ほとんどのショップが休業していた4月~5月にあっても、僕がVESPAの修理をお願いしている「東京ヴェスパ」には時間を持て余した修理客が続々と押し寄せていたし、千葉県流山市にある中古カメラ店「フラッシュバックカメラ」のオンラインストアでは、希少品のレンズがバカスカ売れていく。ファッション業界の友人や諸先輩がたが開催するインスタライブや、それに紐づけてレアなヴィンテージを販売するBASEも(もちろんその人の信頼度に応じて)大盛況。僕たち数寄者はどんなに先が見えなくても、本当にほしいものは買わずにいられない。そう、今や日本の消費を支えているのは超お金持ちかマニアなのである!

ここにきて僕も〝諦めることを〟諦めることにした。先が見えない世の中だからこそ、今買えるものは今買っておう! という結論に達したのだ。

というわけで自粛明けの6月半ば、僕が手に入れたのはシトロエンの2CV(ドゥーシヴォー)! GQ編集長の鈴木正文さんもちょっと前まで乗っていた、フランスが誇る名車である。ドヤ感皆無のファニーなルックスに長年憧れ続けていたのだが、〝ブリキのおもちゃ〟と称されるペニャペニャなボディは、事故ったら即成仏。もちろんエアコンなんて効かないから、真夏は間違いなく地獄。と考えると、都会暮らしの軟弱者がこいつを手に入れるためには、2台持ちが条件となるのだ。これでは嫁を説得できん! 実を言うと現在乗っているカングーは、そんな消極的な選択の賜物だったのである。


いつか、いつか、と思いつつも手を出せずにいたのだが、その間にも市場価格はぐんぐん高騰。10年ほど前なら100万円も出せばそこそこの個体を買えたと思うのだが、今やオンボロでも約100万円。ピカピカのを買おうとしたら200万円は覚悟せねばならない。

加えて明日の身をも知れぬ不況、出版界の構造の変化。やたらと旧車に対して厳しいわが国の税制云々……。などを総合的に鑑みると、「買うなら今しかねえ~~~~~~」のである!!

そんな風にして腹をくくった僕の前に、ジャストなタイミングで現れたのが写真の個体。岐阜県に住む、その界隈では非常に有名なカーマニアの方が破格で売りに出されたものだ。2トーンカラーの「チャールストン」を、純正にはないアイボリー×ベージュにリペイントされており、惚れ惚れするほどお洒落。実はこちらのオーナー様はVAN SHOPを経営されるなど長年ファッション業界で活躍されていたとのことで、普通のカーマニアとは一味違うセンスの持ち主。ちなみにトップ写真に写っているDSは彼のもので、なんとシートにはルイ・ヴィトンのトランクから取ったモノグラムキャンバスが貼られている・・・。どうせ買うのならば、出所のわからないものより、そんな個性ある方が大事に乗られていた、ストーリーのある個体のほうがいい。


かくして6月末、僕はついに長年の夢であった2CVを購入してしまった。ちなみに資金源は、泣く泣く手放したアンティークウォッチ。リセールバリューのある時計って、こういう時に便利だなあ~。

しかし残念ながら、僕はまだ「オーナー」にはなれていない。実はこの車体はフレーム(シャシー)がイカれてしまっているため、そっくり交換しなければいけないのだ。よってオーナー様と僕が所有することになる2CVを拝みに岐阜県まで行ったものの、クルマはそのまま修理屋さんへ直行。現在、僕の2CVは京都にある有名なシトロエン専門店「アウトニーズ」にて、フレームがフランスからやってくるのを待っているところだ。おそらく年内に納車できるかどうか、という感じである。今後の展望としては、かつてエルメスがシトロエンとのコラボレートで制作した2CVのように、内装にレザーを貼りまくりたいと思っている。レザーの情報求む!

実を言うとこのクルマを買ったことは、まだ妻には内緒である。納車までの数ヶ月間、うまい言い訳を考えなくてはならない。
Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。