Fit in Passport に登録することで、あなたにフィットした情報や、Fit in Passport 会員限定のお得な情報をお届けします。

ページトップへ

STORY

「ぼくのおじさん」という居場所


読者の皆様 大変ご無沙汰してしまい、申し訳ありません!
 
僕はといえばこの1年、はじめて何のしがらみもないフリーエディターとして活動していたのだが、いや〜、本当にファッションメディアを取り巻く環境は大変ですね。物質的にも内容的にもどんどん薄くなっていく紙の雑誌。クリエイターに対するリスペクトを微塵も感じられない媒体社。下がっていく一方のギャランティ。メディアを「広告を集める装置」としか考えていない運営サイド・・・。ちなみに僕が関わっているメディアはそんなことないので、ご安心を!

でも、かつて僕がいたファッション業界は〝格好いいものをつくれる人〟がリスペクトされていたものだが、現在は〝数字を取れる人〟に置き換わっていることは間違いない。そういえば、1970年頃から活躍している超大御所カメラマンが、「俺がこの仕事をはじめた時よりも雑誌のペー単(ページあたりのギャランティ)が下がってる」なんてことを仰っていたが、そりゃあ文化も衰退するわな、という話である。
 
・・・なんて、いつまでも愚痴をこぼしているわけにはいかない。自分の居場所がないならば、もはや自分でつくるしかないわけで、この1月、新しいWebマガジン「ぼくのおじさん/MON ONCLE」をつくってしまった! 人生経験豊富な〝おじさん〟たちの文化を、これからの若者たちに継承する、コミュニケーションの場をつくることを目的としたメディアである。その内容については実際にご覧いただくのが手っ取り早いが、様々なクリエイターたちとの出会いを経て、我ながらとても熱量のある〝場〟が出来上がったと思っている。絶対に面白いよ!
 
ひとつの〝場〟をつくることを目的としたメディアならば、実体としての場所も必要では?と思い、ついでに事務所も借りることにした。写真や動画を撮ったり、原稿を書いたり、たまにお店になったり・・・。そんな自由で余白のある空間が理想。というわけで、最近は洋服よりも事務所づくりに没頭している。題して「atelier MON ONCLE」である。


場所は神楽坂と江戸川橋の中間あたりで見つけた、築60年を超える古民家。直近ではマッサージ屋さんだったこちらを一度スケルトンにした上で、あたかも昔から存在したかのようなムードにリノベーション。施工をお願いしたのは、デザイン事務所の「ハジカミ」さんである。こちらに「ペジテ」で買った古家具、「オンザショア」で買った中国山東省の古家具、インドは「ピエール・ジャンヌレ」の椅子、「チェスカチェア」、モロッコの「ベニムギルド」、なぜか無印良品の有明店で1000円で見つけた古い茶箱・・・といったインテリアを持ち込んで、出来上がったのがこの空間である。いかがでしょう? 予算の都合で手をつけられなかった場所も多いし、決してラグジュアリーではないけれど、とても「ぼくのおじさん」的だと思う。映画「ぼくの伯父さん」でジャック・タチが住んでいたアパートの、日本版というか・・・。


ここで仕事をしていると、1日に2人くらい「ここは何のお店ですか?」と聞かれるので、〝場〟としてのポテンシャルは上々のようだ。つい先日はガスストーブをつけたまま2時間外出してしまい、消防車とパトカーが出動。期せずして近所ですっかり有名な存在になってしまった。まあ、よしとしよう・・・。
Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。