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STORY

Fabriqué en France


別に今更、洋服の生産国にこだわるつもりはないのだけれど、気づいたら集まっているのがフランス製のネクタイ。もちろん、イタリア製も英国製も日本製もあるのだが、改めてネクタイ置き場を見てみたら「MADE IN FRANCE」と書いてあるネクタイが思ったよりも多かった。全部で100本以上あるネクタイの中からざっくりと抜き取ってみたところ、ざっと4~50本がフランス製だった。コレクターじゃないし、今までそんなの数えたこともなかったし、この数が特別に多いとは思わないけれど手に取ってまじまじと眺めてみたところ、やはりフランス製のネクタイは発色や柄行きが独特である。曖昧な色や抽象的な柄が多く、ストライプやチェックなど古くは特定の意味を持っていたはずの英国柄も、フランスの手にかかると軽やかで自由な表現になる。 


「独特だ」「自由だ」などと言ってみたところで、結局それらのネクタイを買い集めたのは自分自身なのだから「フランス製のネクタイは独特で自由だ」というよりも「僕が選ぶネクタイは独特で自由だ」と限定的にした方が適切かもしれない。しかし、例えば1892年にウィーンで創業し現在は南仏・ニースに拠点を構える老舗・BREUERのネクタイはストライプが何故かアメリカ式と同じ「向かって右下がり」になっていたりして、英国の正当性に媚びない一種独特の美意識や矜持、ツイスト感覚をフランスのネクタイメーカーやデザイナーが持ち合わせているのは確かだろう。ちなみに僕は右下がりのネクタイはアメリカ製でしか持っていない(と、思う)。

 

僕が持っている「MADE IN FRANCE」のネクタイたちはどれも重厚さとは無縁の存在で、例えば「フレンチブルー」と呼ばれるような青を中心に発色は独特に曇っているし、プリントものは芯地や表地が薄くてペラペラ、たまに芯地も表地も重厚なものがあるかと思えば柄が意味不明(というか、高いデザイン性)なものだったりして、英国製のレジメンタルストライプのように「俺は権威だ」という正しく偉ぶった感じやイタリアのソリッドタイのようにシンプルな色気を発しているものが皆無である。くどいようだけど、これは一般論ではなくて「鶴田が選ぶフランス製のネクタイ」という鍵括弧付きの話なので、悪しからず。

大剣の幅は9.7㎝~6.0㎝まで多種多様。結局のところ、僕はネクタイの幅なんてどうでもいいと思っている。ただ、ちょうど結び目に来るあたりが太いとタイスペース狭めのシャツが好きな僕にとっては不都合なので大剣が太いものは小剣にかけてのテーパードがきついものに限って選んでいるようだ。芯地が薄いものを好む点も、たぶん同様の理由だと思う。

もはやネクタイを身に着ける機会そのものが激減している現代社会において、僕が意味もなくタイドアップして出かけるのは「単純にアイテムとして好きだから」だと思う。ネクタイの社会的機能性にはほとんど興味がないし、その行為は自らをきちんと見せるための演出やマナーからは程遠い。むしろ着こなしにアート性やユーモアを加えてくれる存在として見ている。

ちなみに「フランス製ネクタイ」と言えばHermèsだが、僕が持っている10本程のHermèsタイはすべて池袋の百貨店内で買い求めたものである。なぜか、銀座のHermèsでは買い物する気になれなくて、板橋区の自宅から電車で10分のデパートあたりで買うのがちょうどいい。「憧れの銀座のHermèsで買いました」という感じそのものが僕にとってはどことなくこそばゆく感じられるし、銀座のHermèsは僕みたいな阿呆が買い物する店ではないというリスペクトが邪魔をして逆に居心地を悪くさせる(フォーラムには展示を鑑賞しによく行く)。とか言うと池袋の百貨店に「うちをなめてんのか、お前」と叱られそうな気もするけれど。なんというか、僕はガムを買うみたいにネクタイを買いたいので、わざわざ銀座まで出かけて立派過ぎる店で買い求めるよりも、たとえそれがHermèsのネクタイだとしても家の近くでひょいっと選びたいのだ。意識してネクタイを見に行くのではなく、「居酒屋で昼酒飲んだし、帰りにネクタイでも買うかー」くらいのノリでいい。格式とか権威とかに媚びず、あくまで日常使いのアクセサリーとしてネクタイを扱いたい僕にとって、ネクタイはそもそも自分を立派な存在に見せるための道具ではない。だからこそ、雑でありたいし、買う店を選ばないという意味で逆に選んでいるのかもしれない。って、そんなツイストしたことばかり考えている僕はこれからもきっと変なネクタイばかりを買ってしまうだろう。フランス製にこだわって探すことはないのだが、モノで選んだ結果として「MADE IN FRANCE」のタグがますます我が家に増えていくのだと思う。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。