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STORY

不足の美学

「文学とは何ですか?」

この問いに即答できるほど僕は文学のことを熟知していない。
同じ問いをChat GPTに投げてみた。以下が「彼」の回答だ。

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文学とは、人間の経験や感情、思考を言葉を通じて表現し、共有する芸術の一形態です。通常、詩、小説、戯曲、エッセイなどの形式を通じて表現されます。文学は、文化や歴史、個人の視点を反映しながら、読者に深い洞察や感動を与えることを目的としています。

【文学の特徴】
・言語表現の芸術性: 言葉の選び方や構成を工夫し、美や感動を追求します。
・想像力の展開: 現実の世界だけでなく、想像の世界を描き、読者を新たな視点へと誘います。
・普遍的なテーマ: 愛、死、自由、孤独など、人間の根本的な問いを扱います。
・文化的背景の反映: 時代や場所に応じた価値観や社会的状況が織り込まれます。
【文学の目的】
・感情の表現や共有
・人間性の探求
・社会批評や変革の提案
・美的な楽しみの提供

文学は単なる娯楽以上のものであり、私たちの思考を深め、他者との共感を生み出し、世界をより広い視野で理解する助けとなります。




なんと模範的な回答だろうか。「彼」が数秒のうちにはじき出した答えを見て、僕は「なるほど」と唸ってしまった。が、この答えには何かが足りない。何が足りないのかは分からないが、何かが足りない。考えてみれば、僕にはいつでも何かが足りていない。何が足りていないのかは分からないが、何かが足りていない。だから、僕は書くことにしたのだと思う。昨年5月、高円寺「ROKUMEICAN」で開催した合同マーケット「アンド・アイ・ラブ・ハー」を終えた直後、発作的に書き始めた長編小説。約ひと月のうちに一気阿成、寝る間も惜しんで書き続けた結果出来上がった210ページの純文学作品「アンド・アイ・ラブ・ハー」。その後の数か月で校正に校正を繰り返し、10月の頭には自費出版の印刷所に入稿した。カバー写真もデザインも自ら手掛け、世の中のプロフェッショナルから見るとアマチュアな仕上がりなのかもしれないが、この本の主人公「高橋コナン」の物語を包むにはちょうど似合っているような気もする。出来上がった単行本は12月頭の「文学フリマ東京39」と自らのポップアップストア「ねじ店2024 結びの一番」で販売したが、完成した「アンド・アイ・ラブ・ハー」を再読してみて、すでに直したいところを沢山見つけてしまった。だから、僕はまたいつか書くだろう。足りていないから。それが小説なのかは分からない。洋服かもしれない。写真かもしれない。とにかく僕には何かが足りていない。だから、何かを作る。つまり、僕にとっての文学は「足りなさ」である。欲深いのかもしれない。満足できない。だから、僕は作る。今や「彼」の方が上手に小説を書く時代なのかもしれない。けれど「彼」、つまりAIは「足りなさ」を感じない。「足りなさ」をテーマに書くことは出来るかもしれないが、「足りなさ」を感じることは決してない(だろう)。僕が「彼」の答えを見て感じたのはそういうことかもしれない。「アイツ、洋服屋を辞めて、小説家にでもなるつもりらしいぜ?」と、僕のとっ散らかりを揶揄する声が遠くで聞こえる。いや、僕は初めから何も辞めていないし始めてもいない。単純に「自分のままでどこまで遠くに行けるのか」という実験を繰り返しているだけだと思う。「足りなさ」を感じているうちはずっと。僕にとって文学とは世界に向けての求愛宣言かもしれない。だから、生まれて初めて書く小説のタイトルは、やっぱり「アンド・アイ・ラブ・ハー」などとなってしまうのだ。

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2025年1月、NEJIは漫画家・電気こうたろうと共に「文学フリマ京都9」に出展します。NEJIと電気こうたろうのブース番号は<え-45>です。約900の出展者が軒を連ねる巨大文学イベントに是非お越しください。

「文学フリマ京都9」
会期:2025年1月19日(日)
開催時間:11時~16時
会場:京都市勧業館「みやこめっせ」1F 第二展示場

「アンド・アイ・ラブ・ハー」
2024年12月1日初版発行 210頁
著者:鶴田啓(NEJI)
カバーデザイン:NEJI
カバー写真:NEJI
スタイリング/ディレクション:NEJI
モデル:伊藤モドゥバッケ
<NEJIのオンラインショップ ネジウェブストア にて販売中>

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。