Fit in Passport に登録することで、あなたにフィットした情報や、Fit in Passport 会員限定のお得な情報をお届けします。

ページトップへ

STORY

ベストはフランスに限る

若い頃は全然似合わなかったスリーピーススーツが、この頃ビシッと着こなせるようになってきた。それは間違いなく、お腹にたっぷりと脂が乗ってきたからだろう。空前のビッグサイズブームといえど、ベストはやっぱりフィットしてなきゃ格好悪い。ひょろひょろの若者よりも、ちょっと肥えたくらいの・・・たとえばフィリップ・ノワレのような、いかにも美食三昧してそうなフランスのオッサンにこそ、一番似合う洋服だと思うのだ。


だから、ではないだろうが、フレンチブランドのベストには洒落たものが多い。エルメス、アルニス、アナトミカetc.。これらは総じてVゾーンが狭く、生地やボタンもなかなか主張が強い。たとえば写真で下にかかっているアルニスのベストはシルク製でボタンにも細密な模様が描かれているし、上にかかっているエルメスのものは乗馬柄の刺しゅうが施されている。しかもどちらの裏地もけっこう凝っているから、ジャケットを脱いで見せびらかしたくなるほどに完成されたデザインなのだ。イギリスだとベストとはあくまでスーツの一部というイメージだし、イタリア人やアメリカ人がベストを着ている姿は少々思い浮かべにくい。つまりベストとは合理主義的思考では語れない、余裕あるオッサンのための嗜好品であり、だからこそフレンチブランドのベストは格好いいのだ。

そんな出っ腹を正当化するオッサン論理を開陳した勢いで、久しぶりにエルメスのベストを着てみたところ、なんとボタンが閉まらないではないか。これじゃアウターとしてしか着られない! ならば最終手段の「裏地交換」するしかないか? でもこの凝った裏地を潰すのはもったいないし・・・。そう、やはり物事には限度があるのだ。
Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーのファッションエディターとして活動しています。ファッションディレクターとして創刊時から参画している「MEN’S Precious(小学館) / http://mensprecious.jp」を中心に、カタログの編集、原稿の執筆が主な業務。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。

REVIEW