
このレザージャケットの存在を知るきっかけとなったのは、1988年に出版されたフランスを代表する写真家ロベール・ドアノーによる絶版写真集『 BONJJOUR MONSIEUR LE CORBUSIER 』を入手した時でした。コルビジェが自宅でくつろいだり、作業をする際にも、このボロボロに着古されたレザージャケットはあまりに印象的にドアノーのファインダーに収まっているのだ・・・。
近代建築の父は、身に付けるちょっとしたアイテムにまで気を使い、その個性的&ファニーなスノビズムにファンも多い。そんなコルビジェが自ら選んだこのジャケットは明らかに撮影用の衣装などではなく、普段から愛用している物のようだった。そしてデザインも秀逸。
ではディテールを細かく見て行こう。 まず、印象的なのはダブル合わせのボタン付け部分に約3センチ幅のテープが配置されている事。これはミリタリーの世界でもあまり例がない。上襟はメルトンで出来ておりフランス警察の現行コートにも見受けられる。素材は成牛革で通称ラッカーと呼ばれる表面だけに塗料を吹き付けた物。特に袖には腹部の革が使われている事がシワの具合から推測される。全体のシルエットは典型的なフレンチワークの型紙で、襟こしの少ないフラットな襟、肩線を後ろに逃がし、後ろネックの登りを高めに設定、前フリを強調した太めの袖・・・といったところか。そしてさらに調べを進めると驚くべき展開が待っていた。
このジャケット、なんとフランスが国家公務員の為に支給している作業着なのであった。特に着用者が多いのが E.D.F (ウーデーエフ/エレクトリシテ・ドゥ・フランス)いわゆるフランス電力の作業員達だ。ジャケット製造メーカーは南仏にある『 GVF graulhet 』社。このモデルのディテールの変遷はあるが、80年代までは支給されていたようだ。 ただ、コルビジェ着用モデルは革のコンディション、構造線から40〜50年代製と推測される。ウール製の上襟、ポケット口が水平の腰ポケットなど、他にはあまり見かけない仕様なのだっだ。 我々『 AUBERGE 』では、コルビジェモデルの成牛・ラッカーの質感をマウンテンゴート革で表現してみた。荒々しい表面感の大型のヤギ革だ。型紙は日本でフレンチワークを最も熟知する型紙職人と共にドアノーの写真を穴があく程なめ回し、ようやく完成に至りました。 そして待つ事1ヶ月、サンプルがおごそかにアトリエに到着。恐る恐る袖をとおしてみると・・・。まさにドアノーの写真そのままの完璧な仕上がり&フィッティングなのでした! デザイン界の巨匠が作業用に選び、くったっくたになるまで着古したフレンチレザージャケット。例えば、レスカ・ルネティエのメガネご愛用の皆様!(かつて Amvai上でも書かせていただきました、ボクも愛用のコルビジェメガネ) 日本一の革鞣しのプロとフレンチワークの型紙巨匠渾身の1着を、是非御試着ください。唸りますよー、きっと・・・。


















