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STORY

赤ワイン染めのバッグ

学生の頃から趣味がジジくさかったのか、ブラウンには目がない。持っているレザー製品の9割はブラウンだし、最近は洋服もブラウンに侵食されつつある。風貌自体も年々ジジイになりつつあるから、あまりに馴染みすぎて〝神保町〟テイストを漂わせてしまうのがたまにキズなんだけど・・・。

今季も〝アットリーニ〟や〝 T-MICHAEL 〟のブラウンジャケット、〝テーラーケイド〟のビスポークスーツなどブラウンの洋服をいっぱい買ってしまっているのだが、なかでも気に入ったのがこれだ。日本に初上陸したボローニャのバッグブランド、「チェッキ デ ロッシ」のショルダーバッグである。

コートに合わせるのが最高!

このバッグ、あまりにオイシイ要素が多すぎてどこから説明すべきか悩んでしまうのだが、まずはヴィンテージのようにムラムラした、レザーの素晴らしい風合いについて言わせてほしい。なんとこちら、バッファローレザーをトスカーナ産の赤ワインで染めているのである! フガフガと嗅いでみるとほのかに・・・いやかなり濃厚にワインの香りが鼻を挿して、さすがにアルコールは抜けていると思うが、下戸な僕はちょっと「ンッ」とひるんでしまうほどだ。
お次は四隅をカーブさせてつくったコロンとしたフォルムについてだが、これはトスカーナに伝わる伝統のモールディング技術(木型に沿わせて成型する)によって表現したものだという。たまにイタリア製のコインケースで貝のようなカタチのものを見かけると思うが、こちらはその技術をバッグに応用しているというわけ。手に入れてからのお楽しみとしてはジップを開けたときに露出する手縫いのステッチも、実に愛らしい。

赤ワイン染めならではのムラ感がいい風合い。

味わい深い手縫いのステッチ。

とまあいいとこだらけのバッグなのだが、ひとつだけちょっとした欠点がある。それは入れるものがない!ということ。携帯以上財布未満といったサイズ感なのだが、携帯やパスケースなんかはポケットに入れちゃうし、ペン? 文庫本? 文房具? 缶コーヒー? ガム? うーん、どれもわざわざこんな小さなバッグにゃ入れないわな・・・。え?「ちょっとした」どころじゃないって?でも本当いうと、そんなことはどうでもいいのである。僕はもはやモノを入れるつもりなんて毛頭なく、ただこいつをコートの上からたすき掛けしたいだけなのだから。要はエルメスの「クロシェット」みたいな感覚ね。そう、本当に素敵なモノの前では使い勝手なんて大した問題じゃないのだ。

Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。