ボクに与えられたイベントスペースは、たまたまそのカフェの斜め前で、コーヒーのオーダーが入る度、あのミルの音と良い香りに包まれることとなる。しかし、このコーヒー豆を挽く香り、自分の今までの感覚と何かが違う。上手い言葉が見つからないが、香りの情報量が多いのだ。強い香りなどという安直なものではない、食レポなどでは通常使われない様な形容詞がふわっとアタマに沸き立つイメージか・・・。そういえば、これと同じ体験をしたのがグラスゴーに本社のあるオーディオメーカー「 LINN 」のショールームでのスピーカー視聴の時の記憶・・・。

その日、割と聞き込んでいたコルトレーンとヘレン・メリルのCDを持参したボクは、まぁ驚いた。人生初の音場体験。目をつぶればその3m直前にコルトレーンが立ち、明らかにその後でデューク・エリントンがピアノを奏でている。演奏当時の気配までもが再現される夢の空間。好事家達はその音空間に自分だけの最高の癒しを求めてアンプ、ケーブル、スピーカーの組み合わせを追求するのがオーディオ道なのだ。卓越した装置により、まず洪水の様な音情報が用意される。そして、好みの音色を目指して追い込んでいくのだ。
聞けば、ミカフェートの製法もまさにハイエンド・オーディオの音作りと同じ感覚に思えた。最良の農園を選び、木を指定し、完熟の実のみをハンドピッキング、その後の余りに長い工程は割愛するが全てはこの情報量の多い香り、至高の一杯の為に最善の組み合わせを持って理想の風味を探るのだ。そのこだわりの最たる例は豆の保存法。なんとシャンパンの如く瓶づめしてしまうこの手法!(下の写真をご覧あれ)
これはディスプレイの為ではなく、理由がある。ロースト後の豆は自らガスと共に良い香りも放出してしまうので、その鮮度、旨味、香りの全てを封じ込めるのにはシャンパンボトルが最適だったとか。なるほど。そして最終日の夕方6時にボクは最上位の豆「 Grand Cru Café 」をオーダーした。

そして分かったこと。ボクは酸味が苦手なので、強ローストを選びがちだった。しかし深煎も過ぎると、細かな風味のニュアンスまで薫味で押さえ込んでしまうようだ。豆の情報量を最大限に感じる為には深すぎないロースト、粗挽きを手際良くドリップする事が大切であることを知った。
入魂の一杯を口に含み、ゆっくり呼吸をすると,そこには産地の野生や大自然のイメージが浮かび上がってくるようだった。あの「 LINN 」スピーカーの間でコルトレーンがブロウしていた時の様に・・・。



















