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STORY

ポートベローマーケットで買ったローライフレックス

6月は出張の季節。ロンドンとフィレンツェ、ミラノを10日間かけてまわってきた。昨年 Amvai でご紹介したように、いつも出張時は無謀な買い物に走るのが常なのだが、今回は久しぶりに洋服関係の出費はゼロ。ロンドンではイートウツのダブルブレストジャケットに心ときめいたけれど、古いアルマーニで事足りるかな・・・と自分に言い聞かせ見送り。フィレンツェではマーガレット・ハウエルの日本未展開リネンジャケットが素晴らしかったけれど、 L サイズしかない・・・ということで断念。

そのかわりというのもなんだけれど、ロンドンのポートベローマーケットで、今年絶対に買おうと思い密かにリサーチをかけていた、ローライフレックスを購入。しかも傷やカビなどもない「プラナー80 mm 2.8 f 」のレンズが付いた、極上ものである! 日本の中古カメラ店ではオーバーホール済み・革ケース付きで20万円代後半〜30万円半ばで売られている個体が多いようだが、マーケットの一角にある怪しげな中古カメラ店で扱っていたこちらは、値切り後の価格1,100ポンド。現在の為替が1ポンド約140円だから、約15万円といったところだろうか。純正ストラップこそ付いているが、革ケースはなし。価格だけでいうと相場の半額になるわけだが、果たしてこれを安いとみてよいのだろうか・・・?

いつまでも眺めていられる、ライカに劣らぬ物体としての存在感。

こちとらローライは触ったこともない素人なので不具合があってもわからないし、保証はうさん臭い店主の「俺を信じろ」という一言だけ。安物買いの銭失いとなる可能性は極めて高かったのだが、それでも僕は買ってしまった。 ATM でおろしてきた1,100ポンドを数え終わると同時に、力強くハイタッチを求めてくる店主。そう、求めていたのはこれなんだよな・・・。たとえ半年保証がついていようともマップカメラの分割払いでは、このリアルな温もり、そして達成感は得られない。
手こずりながら購入したフィルムをネットを参考に装填し、さっそくロンドンの街中をぶらつきながら撮影してみた。はじめて持ったローライは、思ったよりも重たくてストラップが肩に食い込んでくる。ヴィヴィアン・マイヤーは女性なのにこれを常に持ち歩いていたわけだから、けっこうパワフルな人だったのね!? それにしてもこれを持っていると、いろいろな人が声をかけてくるし、「俺も撮ってくれ」とせがんでくる。すまん、買ったばかりの素人なもので、まだ撮れてるかどうかもわからないんだよね・・・。

帰国後すぐに現像に出してみたところ、腕はさておき写真はバッチリ撮れていた。イチかバチかの賭けには、まあ勝ったといってもよいだろう。しかし、ローライを買った次の日にブリックレーンのマーケットで手にいれたシルバーの懐中時計は、30分のあいだに1時間進むシロモノで、帰国後即オーバーホール行きと相成った。本体価格200ポンド、修理代5万円・・・というわけで1勝1敗!
ちなみにヒースロー空港の免税店にあるカメラショップで売っていたライカのレンズ「ズミルックス50 mm F 1.4 ASPH .」は、なんと日本円で約30万円ちょいだった。ヨーロッパや日本では約50万円程度だから、恐るべきお買い得。ポンド安のロンドンは、なかなかに買い物しがいがあるぞ!

記念すべき1stテイクはパジャマ姿の私。

Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。