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STORY

ラクアアンドシーのドレスシューズ ~ 三ツ星レストランに合わせたい靴

ちょっと前に林真理子さんのエッセイで読んだのだが、最近の3〜40代男子にはフレンチのフルコースを食べる体力や気力がないとのこと。確かにおっしゃる通りで、われわれ世代のディナーといえば気軽なトラットリアかビストロ、ここぞの夜は同世代の職人さんが握る鮨・・・と相場がきまっている。そりゃスーツや革靴も売れないし、マキシム・ド・パリやカナユニも閉店するわけだ。

確かに、僕も最近クラシックなスーツをめっきり着なくなってしまった。いわゆる革靴は50足ほど持っているけれど、ブーツやモンクストラップなどカジュアル系ばかりで、オックスフォードタイプのドレスシューズはごく少数。この手のものはトレンドに左右されないから、数足持っていれば事足りてしまうしね。

そんな僕が久しぶりに買ってしまったドレスシューズがこちら。

凛とした風格と柔らかさを併せ持つ、カールフロイデンベルグのボックスカーフ

外苑前にある行きつけのメンズショップ「ラクアアンドシー」のオリジナルである。ベヴェルドウエストやピッチドヒールといった、ビスポークっぽいディテールと雰囲気を持ったセミブローグなのだけれど、決して色気ムンムン系ではなく、履き口とノーズの長さの比率は1:1くらいと、控えめで好ましい。まるでヴィンテージショップでたまに見る「ビスポーク流れ」のような雰囲気だ。しかも、カール・フロイデンベルグのボックスカーフを使った9分仕立て(底付けの出し縫いのみマシン)で6万9,000円というのは、相当にリーズナブルと言えるのでは?

アウトサイドカーブ、インサイドストレートの木型。これ見よがしじゃないところがいい。

こんな正しき革靴に合わせたいのは、「30’sの70年代流解釈」といったムードのスーツ。残念ながらワインは苦手なのだが、オテル・ドゥ・ミクニやキャンティあたりで、コッテリとしたディナーを楽しみたいものだ。クラシックな洋服とともに、その舞台となる「場所の文化」も継承しなくてはならない。
Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。