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STORY

アメリカンニューシネマが残したモノ


ベトナム戦争(1965〜75)が始まった頃、当時のリアルな生活や文化とはどんな感じだったのか?

随分あとになってベトナム戦争がどんなものだったのかを知ることにはなるが、1969年生まれの自分にとってアメリカのリアルな状況までは知る由もなかった。

そんな中でも、映画と音楽に関しては、パンフレットや説明書があったので、おぼろげながらもアメリカの当時の雰囲気を断片的に感じることが出来た。特に映画に関しては、アメリカンニューシネマと呼ばれた作品が演出も含めて当時を感じる手掛かりのひとつだったが、作品を見た後の歯切れの悪さ、モヤモヤ感がつきまとう事が多かった。

アメリカのハリウッド映画といえば、スリル、サスペンス、ラブロマンス、近未来、など比較的何も考える事なく楽しめる娯楽感満載の作品を80年代の幼少期から見ていた。日曜洋画劇場や金曜ロードショウは楽しみのひとつだった。

30代になり、50年代以前の作品や50年代を題材にした作品を観ていた。時代をリアルに映した題材や物語を映像化したものが多く、それはそれで歴史の勉強としては手っ取り早かった。いずれにしても、アメリカンニューシネマが当時の社会情勢を風刺する、社会の闇、心の闇を表現する映画のように感じていたので、どこか切ない、不条理な印象を持ちつづけていた。

学生時代、仲間内で映画の中のスタイルについて話したり、マネをしていたことがあった。
アイテムでいうと、皆さんご存知のマウンテンパーカ、タンカ―スジャケット、シャンブレーシャツ、CPOシャツ、など、何故か1960年代後半から70年代のアメリカ映画、特にアメリカンニューシネマと呼ばれた作品群で登場人物が着用していたアイテムばかりだった。

マクレガーのドリズラーやブラックレザーのライダースジャケット、リーのジャケット、デニムチョアジャケットが登場する、それ以前の映画からの影響はほとんど無かった。きっと世代によって影響をうける映画の年代は違うのだろう。

当時の感覚から言うと、アメリカンニューシネマのストーリーを理解していても、映画自体の面白さや深さに感銘をうけていたのか?と問われたら、NOだ。

にも関わらず、その登場人物のスタイルや着用アイテムだけを受け入れてしまえる当時の感覚と無知ゆえのアメリカンカルチャーへの憧れは異常だったとしか思えない。いろんな意味でどうかしていたのだと思う。今でも自分はどうかしている時があるが、年齢を重ねて歪んだ内面はようやくアメリカンニューシネマな感覚に近づいてきてるようにも思える。笑えないが笑ってください。

思い返すと、映画の中の服装が雑誌で取り上げられている事に気づくと、それをよく見ていた気がする。

記憶が定かではないが、『ロードショー』だったのか『メンズクラブ』だったのか?それは、リアルタイムで映画館に足を運んだ方々の中に、服飾関係者が居て服装に着目しながら鑑賞されていたのか?それともたまたま気付いてしまったのか?

ともかく、映画に登場する様々なアイテムとスタイリングは、製作側のコスチュームデザイナーが用意しコーディネートすると聞いた事がある。時代をリサーチし、役どころの邪魔をしない、役どころを感じさせるスタイリングも含めて、素晴らしい職業だ。

それは、ほぼ映り込む全ての役者さんの衣装だから気の遠くなる作業だろう。アメリカンニューシネマの中には、低予算で作製された作品が多かったようなので、なおさら厳しい状況だったと想像する。低予算だったから、、、、という考え方もできなくもない。

そして映画の中での衣装の重要性はアカデミー賞の中にコスチューム部門(衣装デザイン賞)があることによって証明されている。

当時のアメリカンニューシネマのコスチュームデザイナー(衣装担当)だった方々に伝えたい。

約50年近く時間が経過していますが、貴方が用意したあのコスチューム(アイテム)やスタイリングはこれからもずっと語り継がれますよ。
Kenichi Kusano

KENNETH FIELD Designer草野 健一

1969年熊本生まれ。ビームス プラスのディレクターを務めたのち、2012年より自身のブランド「KENNETH FIELD™(ケネス フィールド)」を始動。「For NEW TRADITIONALIST」をコンセプトに、アメリカントラディショナルを多角的にアップデートしたアイテムを提案する。2014年まで「バラクータ ブルーレーベル」のデザインを担当。2014年には「ルウオモヴォーグ」と「 GQイタリア」が主催する新人デザイナー「THE LATEST FASHION BUZZ」に選出される。