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記憶に残るカメラそれは青春のまなざし。 PENTAX MZ-10

今からおおよそ20年前の話。
まだ「写メール」(死語?)なんて言葉が聞こえてくる前だ。カメラを首に下げた若い女性たちが、街を闊歩しシャッターを切る様をあちらこちらで見たように思う。ケータイをパシャパシャやってる今現在との明確な違いは指摘できないけれど、あの頃に青春を過ごした自分としては、あれはあれでよき時代だったと思う。
顧客拡大を図るカメラ業界の思惑か、フェミニズムが進展していく中でのひとつの事象なのかはわからないけれども、90年代における「写真」を取り巻く環境は、明らかに女性の方を向いていた。小さめの一眼レフが続々登場し、そのテレビ CM は、我が子をレンズに収める若い母親の姿をロマンチックに描いていた。
当時の様子を私と同世代である妻に聞くと、やはり彼女も同様にカメラに入れ込んでいたとの事。アルバイトをして小遣いを貯め、購入したのは PENTAX MZ-10 。この頃流行った軽量小型一眼レフのハシリなんじゃないかな?夏休みなどに時間をつくっては、友達と “撮影旅行” に出かけたという。学生生活最後の夏を記録しようと、月に5、6本以上のフィルムを消費していたそうだ。ファインダーを通す事で日常に新たな驚きを見出し、また美術を学んでいた彼女にとって、写真というものが最も身近な表現手段のひとつとなっていたのだ。
時を同じくして HIROMIX 、長島有里枝、蜷川実花らの写真が世を賑わし、それは「ガーリーフォト」の時代と呼ばれるようになった。90年代の『 STUDIO VOICE 』『 Olive 』等の雑誌をめくり、彼女たちの写真が目に飛び込んでくると、やはり感傷的になってしまう自分がいる。写真はヴィジュアルを「記録」するものだが、その時の「記憶」を呼び起こすものでもある。もう何年もシャッターを押していない古いカメラを捨てられないのは、今だに当時の景色を見ているかのような、そんな眼差しを感じるからかもしれない。