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STORY

80'Sジャケットに見るモードの経済学

気がついたら僕も42歳。洋服に対してかつてのように向こう見ずな情熱が失せてきたのか? それともようやく現実というものに向き合う気になったのか? 目に付いたモノすべてを買ってしまうような季節は過ぎ去ってしまった。たとえば今季であればバレンシアガのジャケットなんてめちゃくちゃ欲しいのだけれど、「それだったらデザインソースになっている80’S古着でも買えばいいかな」なんて感じに、ぐっと我慢できるようになったのだ。10年前にこの境地に立てていれば、とっくにマンションのひとつも買えてたんだろうな・・・。

そんなわけで、この夏バレンシアガの代わりに買ったのがこちら。

ブルーのストライプが入った生成りのシルク地は、キザながらカジュアルさも感じさせる。

フィレンツェのヴィンテージショップで買った、アーリー80’Sのサンローランである! 肩パッド、低いゴージ、打ち合わせの重心が低い4Bダブルブレスト、長めの着丈、ノーベント・・・という典型的な80’Sデザインなのだが、この頃のデザイナーズジャケットって、生地や仕立てが抜群によいのだ。おそらくイタリアのサルトリアの製造だと思われるが、総毛芯仕立てな上に、コバステッチや袖つけは手縫い、しかも生地はシルク100%という贅沢さである。しかもデッドストック並みの良品にして、200ユーロ! この価格で今の気分満載なジャケットが手に入るのであれば、35万円のバレンシアガは僕には買えない・・・!

今僕が最も気に入ってるヴィンテージショップ。店名はナイショ!

今やデザイナーズでグレードの高い仕様のジャケットを買おうとすると、最低でも30万円は覚悟しなければならない時代だが、80’Sモノならば1〜3万円程度で手に入るうえ、シルエットはまさしく〝今〟。トレンドモノは古着で済ませて、浮いた予算は長年着られるビスポークに投入! というのがここ最近の僕の流儀である。今季はすでに、アンダーソン&シェパードのグレースーツや、オルタスのカメラバッグの納品を済ませている。まあ、結局マンションは一生買えないだろうな・・・。
Eisuke Yamashita

Fashion Editor山下 英介

1976年埼玉県生まれ。大学卒業後いくつかの出版社勤務を経て、2008年からフリーエディターとして活動。創刊時からファッションディレクターとして携わった「MEN’S Precious(小学館)」を、2020年をもって退任。現在は創刊100周年を迎えた月刊誌『文藝春秋』のファッションページを手がけるとともに、2022年1月にWebマガジン『ぼくのおじさん/MON ONCLE(http://www.mononcle.jp)」を創刊、新しいメディアのあり方を模索中。住まいは築50年のマンション、出没地域は神保町や浅草、谷根千。古いものが大好きで、ファッションにおいてもビスポークテーラリング、トラッド、モード、アメリカンカジュアル……。背景にクラシックな文化を感じさせるものなら、なんにでも飛びついてしまうのが悪いくせ。趣味の街歩きをさらに充実させるべく、近年は『ライカM』を入手、旅先での写真撮影に夢中。まだ世界に残された、知られざる名品やファッション文化を伝えるのが夢。