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映画のワンシーンのように履きたいブーツユニオンスクエアに眠るボクの若気の至り。Red Wing Logger Boots

若気の至り、とよく言いますが、その意味を辞書で調べると『年が若くて血気にはしったため無分別な行いをしてしまうこと』。我々ファッション業界人は、基本的に前のめりです。通りすぎて初めて、手前がゴールだった事を知る…。だいたいそんなもんです。今回のお題『ブーツ』には、そんな若さ故のほろ苦い思い出があるんです……..。
1995年末から96年までの1週間を、ニューヨークで過ごす事となりました。その頃の東京って、そりゃもうスニーカーやらヴィンテージ古着の全盛期で、未だネット社会ではなかった分、物も情報も足で歩いて手に入れる時代でした。95年末と言えばボクは29歳、60年代以降の服は着ないという徹底したこだわりの中で生きておりました。しかし靴だけはなかなか難しく、レトロフェイスなブーツを軸にナイキ ACG のアプローチやマグマ、ラヴァドームだけはアリとしてローテーションを組んでおりました。
さて、ニューヨーク旅行です。真冬です。旅のワードローブを決めなければなりません。ボクの無意味なポリシーと氷点下のニューヨークの真剣勝負です。出した結論は歌舞伎町にあった LLBEAN で故ダイアナ妃も愛用のダマール下着の『レベルマックス北極までOKバージョン』でインナーを固める事でした。その他はいつもの30年代『怒りの葡萄』ワークウェア・コーディネイトで、写真の映画『空中ランチ』狙いです。しかしさすがに防風アイテムだけは欲しくなり、百歩譲って代官山 High Standard でナイロンのカッパを買いました。足下は当然迷う事なく RED WING のロガーブーツをチョイス。バカでした。ホワイツのスモークジャンパーと並ぶ、ブーツ界の最重量級品番でマンハッタンを練り歩く、若さ故、若さ故…。
そしてご存知の方も多いと思いますが、95年の大晦日から96年元旦にかけ、ニューヨークはブリザード96 と歴史に刻まれるほどの都市機能完全崩壊の寒波に見舞われたのです。当然日本からやって来たレア物ハンターのボクらは、ブリザードの中でもサーチ&ショッピングをつづけます。なんと TV 局から取材まで受けたほどです。「こんな最中でも買い物を続ける日本人」というテロップで…。そして突き進む吹雪の中、開いている店を見つけたのです。ユニオンスクエア近くのパラゴンスポーツでした。さすがアウトドア店は需要があるわけですね。ミッドタウンのホテルからユニオンスクエアまでの八甲田山・死の行軍、外気温はマイナス25度だった事を憶えています。ここでボクの足は限界を迎えておりました。疲労骨折並みの激痛です。さらに店内、店外の気温差40度での北極仕様ダマール肌着着用は、不快指数1000%です。まずパラゴン店内でロガーブーツを脱ぎ捨て特価品のナイキスニーカーを10ドルで買い、綿100%の機能素材スパッツとロンT に着替えたのです。爽快&快適です。時代が60年イッキに進んだ訳です。店を出た後、ボクは思い知ったのです。ロガーブーツは木こりさんの為のもので、雪中行軍には不向きであることを。だから当時の日本で約5万弱で買った濡れ濡れのヘビー級ロガーブーツを、除雪した路肩の雪山の中に捨てました。持ち続けるには重すぎるこだわりも、ブーツと一緒に捨てました。今でもユニオンスクエアのどこかに、ボクの若気至りのロガーブーツが眠っているのです。