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大きい鞄のために旅に出たい“モノ語り” を感じる鞄。GROSS WALT「RTB-1」

「技術はある。あとはデザインだけです。」
ご相談のはじまりは、そういう言葉でした。
ヴィンテージのファッション雑誌を扱う当店には、その道のプロの方々がデザインソースやインスピレーションを求めていらっしゃる事も少なくありません。しかしその時いただいたご相談はとても印象的で、お気持ちの溢れるものでした。
長い年月で培われてきた日本の鞄職人たちの素晴らしい技術。それが近年のコスト偏重の流れにより、その活躍の場を失いつつあるという。職人たちにはまだまだ傑作を生み出す腕もエネルギーもあるというのに、それを活かす事も伝承する事も出来ないでいる。その現状を知るや居ても立ってもいられなくなり、新しい企画を立ち上げたとの事でした。相談者の実業家はまだ若く見えましたが、決して情熱だけで突っ走っているわけではなく、成功への強い確信(それは職人たちへの強い信頼)が感じとれました。私は少しでもご期待に応えなくてはと、当店で思いつく限りのものを引っ張り出しては提案させていただいたのでした。
「ありがとうございます!鞄が出来た時には、必ず見せに伺います!」色々とお買い上げいただき、感謝すべきなのは間違いなく私の方だったのですが、きっと何か道が拓けたのでしょう、相談者は更なる闘志に溢れた足取りで店を出て行きました。
それからどのくらいの月日が経ったのか・・・正確に把握していませんが、彼は本当にやって来たのです。もちろん、出来立てホヤホヤの鞄を持って!去り際の言葉は社交辞令程度にしか考えていなかったので、それはもう驚かされました。当店の資料が果たしてどの程度お役に立てたのかはわかりませんが、そうして出来上がった鞄は、間違いなく当初の思いが結実したものでした。
その鞄の主な特徴は、接着剤やポリ芯材などの “量産都合の技法” を徹底的に排除しているという事。鞄を長い年月使用するにおいて、接着剤というものはやがて剥がれてしまうものだし、縁どりにポリ芯材を使用したものは、角部分の劣化と破損によりそれが露出してみっともない姿になってしまいます。それらを用いない鞄づくりは、恐らく容易でない縫製や加工の技術が必要とされるのでしょうが、資材が乏しい戦後間もない頃から確かなモノを作り続けてきたベテラン職人たちにとって、実は最も手に馴染んだやり方なのだと思います。デザインとしては、どうやら当店にあった50年代アメリカの男性誌がヒントになったようでした。確かに、新品でも何となくヴィンテージの雰囲気が漂う出来栄えです。“長く使える” という意味でも、流行りに左右されない、時代を超越できるデザインであることは重要だと思います。
こうした理念と間違いのないモノ作りが認められたのか、嬉しい事に早くも百貨店等で扱われる商品となりました。
私も三年近く使わせていただいておりますが、非常に調子がいいです。あまりに堅固な鞄のため、はじめは使い勝手に不安もあったのですが、数週間でハンドルの革も柔らかくなり、ボディにもクタり感がでてきて、あっという間に馴染みました。今ではいい感じにアタリも出てきて、穿きこんだジーンズのような感じです。ボディが柔らかくなってから見た目の大きさは感じませんが、元々とても収容力があるので、ちょっとした旅の相棒にもなります。また、タンニンなめしのレザーが高級感があるので、カジュアルは勿論、きれい目のスタイルでも充分にマッチして、着る服を選びません。
「 RTB 」とは「 Return To Basic 」の意味で、モノ作りにおいての “原点回帰” の意味があります。作り手の技術と愛情が込められたシンプルな鞄に、壮大な浪漫を感じるのです。