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ファッションのある映画止めるな!

昨年(2018)話題になった映画といえば「カメラを止めるな!」だ。新宿K's cinema、池袋シネマ・ロサというわずか2つの小規模な劇場から始まり、その後瞬く間に全国へ飛び火していったこのインディー映画を、僕も後ればせながら10月の終わりに観賞した。笑いあり涙あり、観賞後「良かった良かった」と大いに満足した僕は、富士屋本店でホッピーのジョッキを傾けながら「いったいナニが良かったのか」と思考を巡らせてみた。ネタバレになるので詳しくは書けないが、キャッチコピーの通りで「この映画は2度はじまる」。ゾンビ映画製作をモチーフに、前半でばらまいた「伏線(ヒント)」を、後半に「回収(種明かし)」していく二重(厳密には三重)底の作りになっているのだ。って、今回のテーマは「ファッションのある映画」なのに、一見ノーファッションなB級ゾンビ映画「カメ止め」のどこにファッションがあるの?と言われてしまいそうだが、最後まで席を立たずにお付き合いを…。僕が言いたいのは「(主にメンズ服において)コーディネートが伏線の回収に終始してしまうことってありがちだよね」ということ。もっと簡単に言えば「各アイテム同士につながりや意味を持たせ過ぎる」ってこと。これは洋服の背景や歴史的意味を調べあげてコーディネートに臨む人種、例えばセレクトショップ店員(笑)などに多く見られる傾向だ。「足元がロングウイングチップなので、タイのストライプは右下がり」とか「タキシードにスニーカーを合わせているけど、よく見たらオールスターがエナメル素材」みたいな、国合わせ、モチーフ合わせ、年代縛りなど。他にも色や柄の繰り返し方(ネクタイのチェック柄から一色拾ってソックスの色を決める)など、実に正しいんだけど、これにばかり気を取られた着こなしは、「辻褄合わせ感」が強くなり過ぎてつまらなかったりするし、着ている本人があんまり楽しくなさそうだったりする。そう、映画「カメラを止めるな!」の不思議な魅力は「伏線のすべてを回収するのを途中で放棄した感」にあると思う。実際の撮影中に起きたアクシデントもそのまま生かしたらしい。そのおかげで、後で回収するつもりで緻密に張りめぐらせた伏線とホントの事故との区別がつきづらくなり、結果としてそのライブ感が映画自体に生命力を吹き込んでいるように思う。僕はその日に着ていく服を朝起きてから決めるし、実際に鏡の前でコーディネートする時間は5分程度だ。あまり考えすぎないようにそうしているのか、気分屋だから前日の夜に決められないだけなのか分からないが、映画もファッションもちょっと破綻しているくらいの方が好きだ。そもそも映画に見るファッションの醍醐味はそこだと思うし。ファッションもカメラも止まらずに回り続けるのだ。