「この三角の意味をご存知ですか?」
人間は同じ事を毎日毎日繰り返しているとある日、ふと思うのです。「もう少し近道はないものか?」とか「一度の動作で3つの仕事が片付かないかな??」なんてね。
そしてある日、手先の器用な人が現れて魔法の様な機械をボクの目の前に置き、ゆっくり話し始めるのです。「真面目な仕事ぶりのあなたに劇的なスピードで縫製が出来て、縫い目も強く、下糸ボビンの無い、要するに目の前の糸の減りを目視しながら作業が出来る画期的なミシンを差し上げましょう。」
器用なその人はデモンストレーションをもしてくれたのです。ザザザザーッ! なんとそのミシンは表は普通のステッチ、そして裏はチェーン状になっているのです。「ご親切な方、凄いですね! 裏がチェーンになるミシンなんて見た事ありません! これは何と言う名のミシンですか?」
器用な人はそれに答えて「これは環縫いミシンと言います。直線箇所を下糸の減りを気にせず、一心不乱に縫うことができます。しかしその反面、大きな弱点があるのです。」
器用な人は続けます。「見た目は縫われているようですが実は1本の糸しか無い為、縫うというより編まれている様な状態なのです。ほつれたセーターの編み糸を引っ張ったらプルプルっとほどけた経験はございませんか? まさにそれです。縫い終わりの糸のある部分をひっぱると一瞬で全てほどけてしまいます。じゃあ、最後に返し縫いをすればいいじゃないか!とおっしゃいますが、この環縫いミシン、バック(返し縫い)が出来ないんです。何らかの方法で縫い終わりの箇所をステッチ等で止めなければならないんです。
写真の40年代の501XXの前立て裏を見るとベルトの付けミシンは裏がチェーンの環縫いミシンを使い、上はし、両サイドは本縫いミシン(下糸のある通常ミシン)でステッチをいれてますね。
そして問題の三角です。もうお分かりですか? これはベルト付けの環縫いの縫い終わりを2カ所でほつれない様に止めているのです。決して三角はデザインではありません。そしてもう1つ役目を持たせています。縫い終わりにタックボタンを打つ印となっているのです。では505耳付き最初期モデルを見てみるとベルトの上はしもチェーンになっています。これは、ミシンの針を2本にしてベルト幅まで広げ、一発でかけているのです。当然2つのチェーンの終わりを止めなければほつれますね。なのでこの時期は三角が四角になっているのです。これでほつれる事の無い最強ステッチの完成です。

これがアメリカ式の合理化ってやつです。無駄なく一発で作業を完了する探究心から生まれた 三角や四角のお話でした。


















