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STORY

服屋放浪(しない)記

「明日から十二月だね」と言われれば、なんとなく一年を振り返ってみたくもなるよね。とはいえ今年中にやらなきゃいけないことはまだまだたくさんあるので、本当は振り返っている場合じゃないんだけど。

当サイト「Amvai」では「ちょうどいい感覚でモノを選び、紹介していく」ことを基本テーマに掲げているにもかかわらず、鶴田の場合は圧倒的に「モノ」より「コト」の割合が高いので、年末くらいは「今年はこんなモノを買いました紹介」でもやってみよう、と筆を執る。そういえば昨年末もやったね、この感じ。一年が早い。



CROCKETT&JONESのギリーシューズ。これは高円寺の名店・anemone(アネモネ)で購入した。この日は別に古着を見に行ったわけではなく、anemoneのすぐ近くに店を構えるMOGI FOLK ARTに用事があったのだ。僕が入店したとき、ちょうど店主のエリスさんは接客中(しかも、結構時間がかかりそう)だったため、付近をぶらぶらしながら時間を潰そうと思った。anemoneに入り、スタッフのお姉さんに「こんにちは」とあいさつを交わしながら軽く物色していると、すぐにこの靴を見つけた。自分のサイズだった。U社の(たぶん二十年くらい前の)別注品だった。僕の足はサイズが大きいうえに甲高。内羽根式の靴が苦手だ。その点、このギリーシューズはタンも無いし、甲が楽そうだと思った。お姉さんに頼んで試着させてもらったところ、ぴったりだった。「これを下さい」と会計をお願いし、店を出てMOGI FOLK ARTに戻ったところ、エリスさんはまだ接客していた。そりゃそうだ、まだ10分しか経っていなかった。



そのエリスさんの店で(また別の日に)購入したのがGUCCIのクリケットカーディガン。僕がBon Vieuxのために企画した商品のルックモデルをエリスさんが引き受けてくれたので、そのお礼に伺ったら「これ、絶対に似合うからちょっと着てみてほしい」と棚から出して勧めてくれたものだ。いざ試着してみると、エリスさんは「オーマイガッ、ファンタスティック!」を連呼しながら、GUCCIを着た僕の姿をスマホでバシバシ撮り始めた。そんな少年のようなエリスさんを前にして、断る術などない。僕はカーディガンを脱ぎながら「これ、頂きます」と言っていた。このカーディガンは1960年代ごろのヴィンテージで、実際に若き日のエリスさんが着ていたものらしい。隣にいた北村さんによると「まだ創業間もない頃のThe DUFFER of St. GEORGEで、オーナーのエディ(Eddie Prendergast)から買った」そうだ。時代的には1984~85年頃の話だろうか。ロンドンのThe DUFFER of St. GEORGEがそもそも古着屋だったことは知っていたが、そこで売られていたアイテムが巡り巡って僕の手元に届いたことは、実に不思議だ。プラスティックのボタンや凝った編地など、勿論、モノ自体も凄く気に入っている。



同じく高円寺にあるROKUMEICANで購入したウエスタンブーツ(ブランド不明)。アメリカ買い付けから帰ってきた彼の顔を見たくて、所用のついでにROKUMEICANへ立ち寄ったところ、気付いたらこのブーツを買っていた。キッシーの店でウエスタンブーツを買うのは今年二足目だ。まだら模様の革質と、Uチップ(爪先こそ割れていないもののALDENさながらV字型のUチップ)状のディテールが珍しい。って、ソコ、上の写真には写ってませんね。その日に着ていたスーツのズボンの裾を買ったブーツに突っ込んで、そのまま履いて帰った。帰った、というか駅前の大将本店でホッピーを飲んでから帰った。


再び、ROKUMEICAN。自分のブランドのルック撮影用にボクシンググローブが必要だったので、ジムに通っているキッシーから貸してもらうことにした。撮影は無事に済んで、ボクシンググローブを返しに高円寺に向かった。店内でキッシーと雑談しながら、古着を物色しているとMA-1とN2Bがかかっているのを見つけた。ともに同じ年代(1970~)のALPHA社製のものだった。それにしても、今年の秋は暖かい。冬が全然やってこない。日本の気候はこれからどうなっていくのだろうか?というわけで、ライトゾーン対応のL2Bを買うことにした。MA-1のボリュームは昔から好きだったけど、逆に薄手のフライトジャケットは持っていなかったので、ちょうどよかった。




カントリー、スポーツ、ミリタリー、ウエスタン…。チープシック本に出てきそうな基本ワードローブを、すべて古着で購入した組み合わせ。そして、すべてが高円寺購入品。が、そもそも僕は古着屋巡りなんて好きじゃない。高円寺も別に好きじゃない。洋服を探すためだけに、色々な店を見て回ることに意味を感じない。それよりも、人と人とが引き合わせてくれたタイミングみたいなものを信じている。その方がすべてに繋がりを感じられるし、そのあとの展開を(アテにはしないけど)予感させてくれる。MOGI FOLK ARTで買ったカーディガンをBon Vieuxで売るATKINSONSのルックに使ったので、その写真を後日エリスさんに見せたら目を丸くして「カッコいい!」と喜んでくれた。ボクシンググローブを返却した帰り道、Bon VieuxでATKINSONSのネクタイを選ぶお客さんに遭遇した。すべては繋がっている。

自分には自分の、他人には他人の人生があって、生き方があって、それを取り囲んでくれる人がいて、その人に会いに行く道程で服に出会う。いまは、そんな買い物の仕方が、僕にはちょうどいい。「それでは新しいものに出会えないんじゃない?」と言う人がいるかもしれないけれど、僕はそうは思わない。少なくとも自分自身が更新されていけば、自然と会う人も広がるし、新しく会う人は新しいモノや視点を僕の中に持ち込んでくれる。古い目のままで新しいものを探して回るよりも、ずっと現実的な話だと思うのだ。そんなことを感じながら、2023年の僕の買い物は通り過ぎていった(あとひと月の間にまだあるのかも)。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。