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STORY

誉れのネクタイ


半年以上前から僕は高円寺の古着屋「Bon Vieux(ボンビュー)」のために幾つかの商品を企画し始めた。その第一弾となったコーデュロイ素材のスクールマフラーは(まだ厳しい残暑が続く9月の発売であったにもかかわらず)ありがたいことに大変なご好評をいただき、10月下旬の時点で完売間近の残りわずか(結構たくさん作ったはずなのに…)。中には2色共お買い上げになったお客様も。さて、いよいよ11月。今のところまだ日中は暖かいけど、夜はそろそろ本格的に冷たい秋風が吹き始めるころ。気になっている方は、是非お早めにどうぞ。

そして「Bon Vieux」のためのNEJI企画・第二弾はネクタイ。これまでにも書いてきた通り、僕はネクタイが好きだ。「Bon Vieux」オーナーの大島氏もネクタイが好きだ。「ネクタイが好き」とは言っても、それは「ネクタイそのものが好き」なわけではなく「ネクタイを身に付けるのが好き」という意味。つまり「凝った作り」「贅沢な素材使い」「ステイタス」などをネクタイ本体に求めているわけではなく、あくまでも「コーディネートが楽しくなるような」「雰囲気が良い」ネクタイが好き、という点でも共通していると思う。僕らはフォーマルやビジネスという用途に限らず、嗜好品としてのネクタイを日頃から楽しんでいる。2023年の年明けごろに「ネクタイを何かしら企画したいんですよね」と相談された僕は「ATKINSONS、凄くいいですよ」と即答した。




1820年、当時のアイルランド共和国ダブリン市長であったリチャード・アトキンソンが彼のブティック専用に「アイリッシュポプリン」を織らせたことからATKINSONSの歴史は始まったらしい。アトキンソン氏のブティックは次第に王室の婦人達の華やかな社交場となり、ATKINSONSが作る織物は英国王室だけでなくヨーロッパ諸国からも高い評価を獲得。当時のヴィクトリア女王をはじめ、イタリア国王、ベルギー女王、ギリシャ女王、オランダ女王などからもロイヤルワラントを授かったという。誉れ高きATKINSONSを代表する素材「アイリッシュポプリン」は経糸にシルク、緯糸にウーステッドウールを使用しているのが最大の特徴。シルク50%の控えめな微光沢とウール50%のしわを防ぐ弾力性が共存する素材。畝が立ち、じゃりっとした質感の「アイリッシュポプリン」は「結んだ後もノットが緩んできづらい」という点でも非常にネクタイ向きだと思う。




前職時代の2016年ごろ、International Gallery BEAMSのドレスアイテムを企画していた僕はスーツやシャツに合わせるネクタイを探していた。そこで、英国物に強い渡辺産業様から紹介されたのがATKINSONSだった。当時、僕が企画していたスーツはコンテンポラリーな2Bスタイルだった為、ATKINSONSのネクタイはすべて7㎝というナロー幅でオーダーした。中でも「アイリッシュポプリン」素材のものは僕の好みにぴったりとフィット。自分用に購入した5~6本は現在でも愛用している。しかし、現代社会の中で見るとATKINSONSのネクタイは、色・柄が古典的すぎるのだろうか?2016年当時、日本国内での卸先はInternational Gallery BEAMS以外にはほぼ存在しなかったと記憶している。時代に忘れ去られた、誉れのネクタイ。そのあたりも、僕の琴線をグイグイと刺激していた気がする。




2023年2月ごろ、数年ぶりに渡辺産業様のショールームを訪れた。大島氏とともにATKINSONSのスワッチをめくりながら、営業担当の方に話を聞いてみたところ「一部のECサイトを除き、国内での取扱店は皆無」らしい。相変わらずのようだ。しかし、その相変わらず感こそが英国物が英国物たる所以でもある。あれこれと考えた結果、今回は大剣幅9㎝のネクタイを2種類オーダーすることにした。柄は英国らしい配色のストライプもの(写真上)、素材は勿論「アイリッシュポプリン」一択。織ネームは最もクラシックなタイプをチョイス(レッド&ゴールドの配色がカッコいい)。加えてネクタイの全長を短くしてもらった。通常は145㎝~のものが多いネクタイだが、背がそれほど高くない日本人には長すぎる場合が結構ある。そもそもウインザーノットで結ぶわけでもなし、プレーンノット一択になってから久しい現代に長すぎるネクタイを選ぶと剣先が股間の前でぶらぶらするだけだ。若い人のなかには、ネクタイが股間の前でぶらぶらする方がカッコいいと思っている人もいるようだけど(これも『抜け感』なのか?)少なくとも僕や大島氏はネクタイの剣先はベルトループ付近で収めたい派(当たり前)。パンツの股上も深くなってきているし、若い人は腰位置も高いし、142㎝くらいで十分だと思うんだけどなぁ。背が高くて長さが足りない人は、少しだけ小剣を短めに取ってもらえるといい。










今回のルック撮影で、21歳のふたりにATKINSONSのネクタイを巻く鶴田(写真上)。身長190㎝(!)のモドゥ君には先日自分用に買ったばかりの1960’sオールドGUCCIのカーディガン(袖の長さがギリギリ足りてよかった…)を、身長180㎝の秀峰君にはビスポークのネイビーブレザーを中心にコーディネート。若い二人に「Bon Vieux」の一日店長を演じてもらうようなイメージでスタイリング/ディレクション。二人とも、とてもよく似合っている。1820年創業の老舗が2000年代生まれの二人にミートする瞬間を作り上げていく作業は想像以上に楽しかった。

ウール/シルクの「アイリッシュポプリン」は、表面のザラつきとスモーキーな発色が魅力。それらのおかげで古着にもよく馴染む。Gジャン、軍物、モールスキン、シェットランドウール…。シルク100%だとネクタイの質感が浮いてしまいそうな素材との組み合わせも難なくクリアできるからこそ、普段使いに威力を発揮する。僕らふたりは「コーディネートが楽しくなるような」「雰囲気が良い」ネクタイが好きだ。自由な発想で身に付けられるクラシックアイテムは、僕らの日常着をグッと楽しくしてくれる。

[NEJI pour Bon Vieux] ATKINSONS IRISH POPLIN STRIPE TIEは2023年11月18日(土)に高円寺・Bon Vieuxにて発売予定です。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。