町のリサイクルショップでフィッシングベストを買った。500円だった。「あんな感じこんな感じで、存分にコーディネートしてやろう」なんて、ひらめいたり意気込んだりしたわけでもなく「あら、色が可愛いじゃない。おひとつ頂こうかしら、おほほ」と、只それだけで購入したダサいベスト。お洒落目線で見ると偏差値37を叩き出すであろう、ぶっちぎりのローファッションアイテム。寅一のつなぎにも通ずる「すみれ色」はメンズファッションのスターダムには決してのし上がらない、お婆さんとヤンキーの専売特許。
案の定、買った後は衣裳部屋の隅っこに放置されたままで忘却。そして数か月の時が流れた。

広島に本拠地がある「RYOBI」ことリョービ株式会社は1943年(戦時中!)創業の古い企業で「ダイカスト」、つまり鋳造工業(金型に溶けた非鉄金属を流し込み、自動車や家電などに用いるさまざまな形状の部品を作る)を主軸にしている。そして「RYOBI」の釣具ラインがこの「EXE」というレーベル(現在では「RYOBI」の釣具事業は上州屋に吸収されている)…なのかな…?情報極少で不明点が多い。ともかく。
四年ほど前にも書いたことがあるように、いつからか、ワーク/ミリタリー/アウトドア(フィッシングやハンティング含む)ウェア特有のマルチポケット感を好むようになった僕。15歳くらいの頃に釣りベストがトレンドになった時代を経験しているので、その影響があるかもしれないし、一方ではHELMUT LANGやHUSSEIN CHALAYANみたいな「90’sモード的マルチポケット」をコンセプト・造形として愛しているのかもしれない。しかし、RYOBI製のこのベストに関しては、その独特の配色にやられてしまったのだろう。そして見よ、下の写真を。

もはや「合わせ」として成立しているかどうかも分からない、ファッションとしての「馴染まなさ」「脈絡のなさ」「唐突さ」。ベスト以外をなんとなく整合性のある配色でまとめればまとめるほど、そのハーモニーを一撃で粉砕する「RYOBI」の破壊力。コーディネートに慣れや予定調和を感じた時ほど、ノーファッションなアイテムをぶち込みたくなる衝動。というか病気。

しかし一方で、このベストを単品で見ると凡百のファッションデザイナーが嫉妬するほど奇跡的なカラーリングの妙。フロントジップとポケットジップの色をいちいち変えているところなんかもそうだけど、右裾にちょろっと入っているペン?ポケットの黒(しかも異素材)とかタマランね。「アウトドアウェアをワントーンカラーでまとめるとアーバンになる」みたいな手法にいい加減うんざりしているこちらとしては、アンチファッションなマルチカラーこそが大歓迎である。

背面のメッシュは通気性良し(裾のジップを開くと背中一面のゲームポケットに変形する)、充実のベローズポケット、海での遭難時に備えるためか異常に視認性の高い配色、と機能性は申し分ない。そして、この機能を一つ残らず「使わない」というコンセプチュアル。ノーファッションアイテムをハイファッションに転用するという、モード観。アンチファッションの大漁旗を掲げて、えんや丸に乗り込め。いかりを上げろー。まるーー--。船には酔わないが、自己に陶酔する。海では遭難しないが、コンセプトに溺れる。とか、そんなアホなことをいちいち考えなくても、このベストは可愛い。誰が何と言おうとも。
使わないポケットのジップをふと開けてみたら、中からザラザラと少量の砂が出てきた。前の持ち主はこのベストをちゃんと釣具として使っていたらしい。って、当たり前だろ。まるー--。














