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STORY

洋服のシワ、心のクセ

「味のある着こなし」って簡単に言うけど、その味って何味なの?いや、いきなり挑戦的な事を言っているわけではなく、心から自問自答なのだ。たぶん「着こなし」を「着」と「こなし」つまり、「服」と「人」とに分解すると、圧倒的に「人」要素が強い「味」であることは間違いない。しかしこの「人の味」は「創業以来つぎ足しながら使っている秘伝のタレ」みたいなもので、つまり年齢と共に染み出してくるものだろう。そして、それは日々の素行やレクリエーションの積み重ねによるものなので、ある程度は年月の経過に身を委ねるしかない。では「服の味」。

味が出やすい服、というものがある。例えばシワが入りやすい素材のもの。リネン、コットン(デニムなど色落ちが伴うものであればなお良い)、あとはレザーで言うとコードヴァン。

12年くらい履いている、AldenのサドルシューズはCウィズのモディファイドラスト。珍しく、この日は素足履き(ソックスなし、ホントの裸足)。甲高の僕にとって内羽根は鬼門なのだが、この靴も見事に羽根がV字に開いている。けれど、これも味っちゃあ、味。なんというか、人間の不完全さ。この不完全さや情けなさを肯定したような着こなしに僕はシンパシーを感じる。汚い靴も好き。はみ出した襟も好き。鼻毛出てる人も好き。当然汚すぎてダメなものもあるけど、汚くなってもなお良く見えるものには本物を感じてしまう。人も、物も。逆に、完璧過ぎて生活感のないスタイルには無味乾燥を感じてしまうのだ。そして、完璧過ぎるのを崩すために、意図的かつ小手先のテクニックで味を出そうとする魂胆にも激しく興醒めしてしまう。無造作風のロールアップ、とかね。結局、ワイルドに見せようと努力するノミの心臓じゃん?みたいなことを「綺麗にトリミングされた無精風の髭」を見かけるたびに思う。

この日は上下リネン素材を着て出かけた。カラーレスの上着は10年前のUMIT BENAN。ショーツは3日前に買ったVIGANO。買って2日目に家の中で寝るまで穿いていたので、まるで古着のようにすっかりシワシワ。洋服の味出しにテクニックは要らず、ただ着ればよい。破れたりホツれたりしたら縫えばよい、くらいの気概がないとリアリティは生まれない。コードヴァンのシワを綺麗に入れるために定規を当てて…なんてことは一生やらないと思う。少なくとも僕には、意味が分からない。

シアサッカーのウエストコートはやはり10年前のTAISHI NOBUKUNIのもの。5年ほど前、信國さんが僕宛の用事で店を訪ねてきてくれたとき、パンツの膝が抜けるくらいまでシワシワに着古した、青いシアサッカーのスーツ(おそらく自作のテーラーメイド)を腰穿きでこなしていて、サイコーにカッコいいと思った。

僕はズボラなんだと思う。たかが洋服、と思っているから、着てない時はもうほったらかし。で、結果的に、ほったらかしでも平気な服が好きになったのだ、たぶん。それは頑丈さだけではなく、時代性の無さにも繋がる。小手先の今っぽさではなく、心から時代とズレている洋服は定番品と同じくらい永遠に着られると思っている。

靴だって、別に磨かないわけじゃない。ただ、磨いた翌日に「ピカピカに磨きました」って顔で履いていくのが(以前にも書いたとおり)気恥ずかしいだけだ。写真下の黒スエードVチップなんて、5年前にヒモが切れたから、ヒモなしのままでたまに履いている。なんたるズボラ。そういえば、口髭を伸ばしてみた。いまいち思ったような形に伸びなかったので、10日ほど放置したあとに、剃った。なんか、色んなことがどうでもいい。めんどくさい。ただ、そう思えないことだけは一生懸命やろうと思う。その方が研ぎ澄まされるような気がするから。


Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。