文化服装学院2年の冬休みに自動車教習所に通い始め、免許を手にしたのはデザイン科3年の夏だった。小林家では初めて公道を走る時、親父を横に乗せ、ご近所のローカル・ルールの教えを乞うのが習わしで、かつて姉貴もそうだった。その時、親父は死ぬかと思ったそうだ。そして遂に俺の番、親父のローレルは姉貴がいい感じに四方を擦ってくれていたので、デビュー戦の俺としてはこの上なく気が楽だった。そしてエンジン始動、ゆっくり走り始めたと同時に親父は開口一番「おめえ、タバコ吸いながらの運転なんかよぉー10年早えーんだよ!」いきなりそこか!と思いながらも当然それどころではない俺は、ほぼ自転車位のスピードで大通りを目指していた。「おめえ、ほんとにタバコだけは気をつけろよ!」2度目である。そしてふと、親父のタバコへのこだわりの理由を思い出したのだった。姉貴の誕生日の食事会の場で、仮免中の俺は目線を遠くにやりながら言ったのだった。「永ちゃん(矢沢)の『雨のハイウェイ』みたいに134号線を夜、突っ走ってみたいなー。」っと。まあ、別れた彼女をその場において、雨のハイウェイを飛ばしているとふいに涙がでてくるのだが、それをタバコの煙のせいだと自分に言い聞かせる主人公。当時この歌を風呂場でしょっちゅう歌っていたので親父も歌詞を把握していたのだろう・・・。そしてとりあえず俺のご近所デビュー戦はなんのアクシデントもなく終了した。戻るなり母が「あんた。擦らなかっただろーねぇ!本当はお父さん運転上手いんだからね!あんなにしちゃーお父さんが可哀想よ。」確かに親父の運転は教官並みの慎重さでミラーの目配せ&注意喚起のタイミングで運転熟練度は俺にも判る。そんな達人の親父は「車は目的地に着けばそれでいいんだ・・。」と母を制して一言。まるでフランス人のようだと今になって思う。親父なりに俺と姉貴をかばってくれていた訳だ。かくしてあれから30年、俺の自動車遍歴は、とんでもないポテンシャルのドイツ車を無意味にも未だに乗り継いでいる。400馬力も320キロのスピードメーターも日本の公道ではほぼ必要ないって事にようやく気づいたのは最近だ。親父のローレル、紐を解かなくてもスルッと履けるボロボロのスタンスミスの様な車。親父を横に乗せて走ったあの安堵感は、どんなドイツ車の安全装置を持ってしても味わえない、ほろ苦い感覚だった。
REVIEW
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