そうやって書くと、何だかイカしたバンドマンのサクセスストーリーが始まりそうなものだが、現実はまるで違った。“ビートルズ・ショック” は、自分のバランス感覚を大きく狂わせることとなり、それはもう捻くれた少年になってしまったのである。クラスメイトが聴いていた日本の流行歌はことごとく否定し、HR/HM 系の音楽やファッションをとにかく嫌悪した。自分の脳内イメージは初期のジョン・レノン。あの独特のシニカルでクールな立ち振る舞いに間違いなくかぶれてしまったと思う。
その流れからたどり着いたのは、モッズ的な英国趣味だった。キンクスとザ・フーに憧れ、同じ英国出身でも “なんかアメリカの匂いがする” ストーンズは苦手だった。パンク系ではピストルズよりも断然クラッシュだった。そして当然、ポール・ウェラーにも憧れた。ポール・ウェラーとクラッシュの共通点はその多様化していった音楽性であり、自分にとっての「ビートルズ基準」にもドンピシャだった。
大学生になり、自分でもバンドを始めるようになった頃、待ってましたとばかりに「ブリットポップ」の時代がやってきた。渋谷タワレコの洋雑誌コーナーなんかで、音楽チャートだけでなく、ミュージシャンのファッション等もくまなくチェックしていた。よく見かけたスタイルが古着っぽいジーンズに PUMA のスニーカー、そして上着はポロシャツまたはジャージ(トラックジャケット)というラフなもの。そんな中でも特別に魅かれたのが、ブラーのデーモン・アルバーン。『 Parklife 』の PV 等で着ている FILA のジャージ姿がとてもカッコよくって、同じようなモノを探しにシモキタの古着屋を散々歩き回った。そして、彼が着ていたモノでもうひとつ気になったのが、やはり FRED PERRY のポロシャツ。世間でもちょっとしたモッズブームがあって、あの月桂樹のロゴは自分にとっての「英国好き」の目印となった。
近年のブラー再結成での映像なんかでも、FRED PERRY を着たデーモンの姿を見ることが出来る。それは彼のプライベートショットでもよく見かけるので、再結成のためのノスタルジックなステージ衣装というわけではないと思う。彼もまた多様な音楽性を見せているミュージシャンだが、FRED PERRY については一貫して着続けているようだ。ポール・ウェラーもそうだけど、あの月桂樹には、何か “気概” のようなものを感じてしまう。
ここ数年ですっかりアメリカかぶれになってしまった自分も、FRED PERRY のポロシャツとクラークスのデザートブーツだけは何度か買い替えながらも所持し続けている。夏になりたまに袖を通しては、何かしら毒づいていたあの頃を思い出す。そして鏡を見ながら、“今のお前は本当になりたかった姿か!?” と改めて問いかけるのである。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
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90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
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