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極め付きのスウェットスウェット放浪記

僕が初めてファッションアイテムとして、スウェットを購入したのは13歳。「福岡へ家族旅行に出かける」と聞いた僕は「福岡には天神という大きな街があるらしいから、洋服屋もたくさんあるに違いない。地元・熊本には売ってない服がたくさん売ってるに違いない」とひとり妄想を膨らませ、買い物資金捻出の為に愛用していたゲームボーイとソフトを買取屋に売り払うという暴挙に出た。1万円ほどのアブク銭を握りしめた僕は家族とともに一路、福岡へ。今にして思えば当時の熊本には恐るべき高感度ショップがキラ星の如く軒を連ねていたのだが、そんなことはまだ知らない13歳、家族スケジュールの合間を縫って天神にある「地元のジーンズショップと大差ない」普通のアメカジ屋で1着の服を買って帰ってきた。チャンピオンのリバースウィーブ。黒。5,900円だったと思う。そんなの熊本でも普通に買えただろうに。しかし「ゲームを質に入れてまで服を買う」という、この瞬間こそが僕にとっての「卒業」であったかもしれない。半ズボンに「トレーナー」を着てドッジボールに明け暮れた小学生時代からの卒業。この支配からの卒業。どの支配だよ。で、時は流れ。首からエビアンホルダーをぶら下げて、イエローヌバックのティンボにスウェットパンツの裾をぶち込む輩を横目に、agnes b. もどきのスエットカーディガンにホワイトジーンズを穿いていた16歳。グッドイナフのスウェットスタジャンをスウェーバックでかわしながら、 ISSEY MIYAKE の白いスウェットパーカを着てニヒルに笑う18歳。古着屋で買った米軍スウェットパンツ(リバースウィーブ)を自宅で後染め、更にヘリンボーンのテープを10本ほど縫い付けて謎のセルフリメイク、それを RICK OWENS のジャケットに合わせて退廃的な気分に浸っていた25歳。どんどんヤな奴になっていってる気もするけど(笑)。そんな幾千の夜を越えて、いま僕の手元に残っているスウェットはほんの数枚。アメリカものだとボロボロの Penny's 前Vとか AKOM のハリヌキリブ/ BEST ジップ(片ツメ)とか。あ、あと一番寒い時期に自宅でパジャマの上に着る CAMBER のチルバスターとか。スティーブ・マックイーンみたいなタフガイになれない僕にとって、イマイチ出番の少ないスウェットアイテム。それでも10年ほど前、上司に「クリースが抜けてヨレヨレになるまで穿き古した英国人のグレーフランネルパンツ姿を見て、アメリカ人がスウェットパンツを発明したとしてもおかしくないよね」と言われた僕は「我が意を得たり」とばかりに実行。つまり、フランネルのパンツを穿く代わりにスウェットパンツを穿くことにしている。フェアアイルのセーターにスウェットパンツ。ブラウンスエードのフルブローグにスウェットパンツ。当サイトのプロフィール写真(偉そうに腕組みをして写っている)もツイードのジャケットを着て、ネクタイまでしておきながら、下は MARNI の霜降りグレーのスウェットパンツを穿いていたりして。上司の言葉の歴史的真贋はさておき、革靴派の僕にとってスウェット素材はそれくらいの使い方が一番ちょうどよかったりするのかも。