もう何年も前の話。当店の入口のビニールカーテンをバサッと開いて入ってきたのは、雰囲気バツグンの初老の紳士だった。赤いマッキーノクルーザーにブルージーンズ、履き古したようなワークブーツ。それはもう、1970年代のヨセミテから降りてきたような御姿であり、憧れの「ヘビーデューティー」そのものだった。イラストで云うと小林泰彦さんではなく、写実的な斉藤融さんのイメージ。彼の手には見るからに年代モノの L.L.Bean 「ボートアンドトート」。ハンドルの部分はほつれ、元々のネイビーカラーはかなり色褪せているが、実に堪らないヴィンテージ感・・・!ただただ見とれていたところ、「買取をお願いします」という一言と共に、それが目の前にズシッと。あまりの迫力に思わずオロオロ・・・。緊張の一呼吸をおいて、恐る恐る取り出したらば、当然のように出てきたそれは「メイドイン USA カタログ 1975」!言うまでもない伝説の名著である。トートと同じくヨレや変色、傷みが目立ったのだけど、これがまたいいアジを出してて・・・。コンディションには厳格なはずの神保町の古書店主だが、この時ばかりは評価に困ってしまったのだった。
それからというもの、あらためて愛着の湧いた「ボートアンドトート」。色違いやサイズ違いを複数所有してヘビロテしてるけど、やはり普段づかいとして最高です。白いキャンバスに汚れが出てきたら、洗濯機にポイッ。それでなお雰囲気が出てくるんだからたまらないのだ。そして、この秋冬から使い始めたのがレザーハンドルタイプのブラック。気分転換にちょっときれい目のバッグを探していたら、結局 L.L.Bean を買ってしまったというオチ。真っ黒いアイテムには昔から抵抗があるんだけれど、「 L.L.Bean ならいいか」という意味不明の説得力。しかし当然ながら、いつもと違ってアメカジスタイル以外にも合わせやすい。それにやっぱり実用的で、このレザーハンドルは手に優しく肩も入れやすいから、ちょっと重たいモノを運ぶ時にも便利。このカラーの古いのはあまり見たことがないので、これからどう育っていくのか楽しみでもある。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。