もちろん黒に憧れたこともあった。1991〜92年頃に流行ったフレンチシックブームの頃は、黒のパンツとタートルネックの上にリーのホワイトデニムジャケットを合わせるのがお約束。一日中アニエスベーとフリッパーズギターのことばかり考えていた。1997年頃には、岡崎京子の『東京ガールズブラボー』に触発されて自分内80’sブームが到来。テクノポップとギャルソン&ヨージに耽溺し、ウールギャバのセットアップに白のコットンシャツを合わせていた。
しかし僕は、その度に黒という色に挫折してきた。嫌いだからじゃない。この俗世間を生き抜くにあたって、黒はあまりに無垢で完璧で気高すぎる。ゆえに、着る人の粗とか隙とかを最も際立たせてしまう色なのだ。僕にとって黒とは、うっかり遅刻して汗でビショビショになったりなんかしない、チョコレートを食べ過ぎて吹き出物ができたりなんかしない、風呂に入らなかった次の日にフケが落ちたりなんかしない・・・そう、映像の中の高橋幸宏や小山田圭吾のようにクールな男が着るべき色なのである。だって黒ずくめの汗かき&慌てん坊なんてぜんぜん絵にならないじゃないか。
だから僕が次に黒い服を着るとしたら、きっと俗世間にまみれず生きなくてもよくなった、リタイア後だろう。その時はワードローブを黒で統一して、真っ白になった髪を伸ばして、サングラスをかけて、杖なんかついて歩くんだ。・・・ん、それって内田裕也のことなんじゃないか? よろしくロックンロール!
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。