翌朝からメトロの乗り方やカフェでの注文方法に至るまでたっぷり1日付き合ってくれた。夕方、といってもすでに時計の針は20時を回っているが一向に日が沈む気配がないそんな中、リュクサンブール公園の脇を歩いていると空が瞬く間に雲に覆われ大粒の雨が降り出した。
するとM氏が突然『あー、ちょうどいいや。これもマナブ君に教えておくよ。夏のパリの雨は10分で必ず止むんだ。ほら、空を見てごらん、雲の動きが早いだろ。こういうときは慌てず10分間雨宿りするかカフェに入るのさ。』不思議な事にフランス人はあまり傘を持たない。持っていてもそれは基本女性で、風速1m で壊れるくらいの華奢な折りたたみの傘なのだ。おばあさんになるとビニールの三角巾を頭に結んで平然としている。なんで傘を持たないの?と素直な疑問をM氏にぶつけてみた。
『だからさっきも言ったろ、10分で止むからさ。でも実はもう少し話が複雑なんだな。雨が言い訳になるんだよ。』僕には全く意味が分からなかった・・・。『例えば夜9時に待ち合わせの約束があったとする。傘を持ってたら雨が降っても9時に到着出来るだろ?傘が遅刻の言い訳を潰してしまうんだ。』ふむふむ。『もちろん全員とは言わないが、この特殊な10分間のシチュエーションってちょっとしたゲームなんだよ。色々な身分の人がいたしかたなく、半ば強制的に軒下に集まる。そこで交わされる他愛の無い会話こそがフランス独特の機智なのさ。』なるほど なるほど。
では、我が家にフランスで買った傘が全く無いのかといえば・・ありました。
1989年にサンジェルマン・デ・プレにある老舗『 MADELEINE GELY 』で見つけた猫の柄の傘である。ここは当時オリーブ少女御用達の店で、店頭でカスタムが可能な日本にはほぼ無いタイプのフォトジェニックなかわいいお店だった。動物の顔の柄が人気でどれもシュールな顔つきなのが特徴だ。ただ難点は傘をささない国の傘なだけに乾いていても重いチノクロス製なのだ。そこに使う側への配慮は微塵も無い。
じゃあシェルブールの雨傘はどうしてくれるんだ!なんて声が聞こえてきますよね。舞台は田舎の港町で駆け込むメトロはありませんから、多少は傘のシーンが挿入されてます。しかしそのシーンをよく見ると、傘をさしているのはやはり女性で、おおかた男性は上着の襟を立てて小走りしてます。まさにこの感じなんです。男はパリでも港町でも傘をささないんですね。フランス男にとって、雨は偶然の出会いを生む空からの恵みなのですから・・・。
「オーダーしたからこそ馴染んだ」と思えたもの、そんなモノが男にはある。AMVERが選んだオーダー品はどんなものなのか。
買ったけれど着ない服、いまとなっては着ない服、袖を通すことができない服……。1900年初頭にフランスで作られたリネンシャツ、Trout manのシャンブレーシャツ、貴重なポパイのTシャツなど、AMVARたちの「着られない服」。
90年代のゴムバンド Swatch、織り糸に水を弾く機能を持たせたエピックナイロンのシリーズ、ウィリス&ガイガーのブッシュポプリン製サファリジャケット……AMVARたちの雨の日のスタイル
80年代リバイバルのアルマーニのスーツ、春の曇天にはぴったりな“グレージュ”、そしてデニム。AMVERたちが手にした春のセットアップ。