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生涯をともにしたいワークチェア岡本太郎作『坐る事を拒否する椅子』より、さらに坐りにくい椅子で5年。The General Fireproofing Company のワークチェア

98年にかみさんと2人で作った今の会社も4年が経ち、遂に人を雇う事となった。社員第一号。なんだか嬉しくってね。夫婦でやってるとある程度の閃きはお互い想定内なんだけど、そこに3人目が加わったら自分達がどうなっていくのか?そんなことを話しながらの毎度の食事は楽しかった。
さて、迎え入れ準備。机は新人にホームセンターで天板& 2×4材で自作させると決めていた。 自分もかみさんも机は自作だったからだ。そして椅子、そうだ椅子が無い。だが俺には新人を座らせたいワークチェアのイメージがあった。50年代 U.S made のアルミで出来たエアストリーム色のアレだ。当時、巷ではインダストリアル系のヴィンテージ家具の流行り始めではあったが、まだまだ扱っているショップは少なかった。ただ探し物がU.S物だったので迷わず目黒ACMEへ。そして見つけたのが写真の50年代 The General Fireproofing Company 社製のまさにイメージ通りの一脚だった。ただオリジナル素材の座面がだいぶ痛んでいて二の足を踏んでいると『張り替えますよ』と店員さん。
アレキサンダー・ジェラードなテキスタイルから50’Sツイードまでなかなかの品揃えを御開帳。そして出した答えはシャネル調。白×黒の50’S ツイードがストレートにシャネルスーツを連想させてとても素敵だった。2週間後、パリのエスプリを纏った U.S ワークチェアが到着した。それを見て一番喜んだのは俺だった。
そして新人の彼はがむしゃらに5年間働き、立派になって別の世界へ巣立って行った。その間、 ずっと俺のシャネルチェアを使い続けてくれた。
つい先日、8年ぶりに倉庫から引っ張り出してみると、座面のツイードが彼のデニムのせいでだいぶグレーに汚れている。残像って奴は一番良い頃のイメージで保存されることに気付く。見たところまだまだ使えそうなくたびれ気味のエスプリチェアに座ってみる。このきしみ音が懐かしい。 ただ1つ息を飲む事実があった。この椅子、むちゃくちゃ座り心地が悪い。座面と背もたれの角度がえらくムカつく。あいつ、よく5年間もこの椅子でハードワークに耐えたな。仕事よりシャネルチェアが辛いなんてせっかく用意した俺には言えなかったんだろうな。おしゃれは我慢、この原理原則を在職中にきっとこの椅子から学び取ってくれただろう。本当にすまなかった。