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STORY

ロマンチック

僕はロマンチックだ。

シャイ過ぎて熱中できない。一歩引いて物事を見るようなイヤな子供だったので、若い頃はまさか自分がそうだとは思っていなかったけれど、歳を取るにつれて段々と「自分はロマンチックな人間である」と思うようになってきた。ネット検索でロマンチック(romantic)を引くと「現実を離れ、情緒的で甘美なさま。また、そのような事柄を好むさま。空想的。」とある。そういえば小学生の頃から三国志や(田中芳樹の)アルスラーン戦記など異国の時代モノが好きだったのは「イマココ」から遠くはなれた世界に空想を飛ばし悦に浸っていた、ということなのかもしれない。


自分で服を着るときだってそうだ。やっぱり、ロマンチックになってしまう。だからこそ、めくるめくファンタジーの世界が広がっているハイファッションが好きになったのだろうし、ある意味では「いま自分の目に見えている現実世界が全てだとは思っていない」という疑り深さと紙一重のような気もしてくる。


2020年の秋。この日は裏返しに着た90's ROMEO GIGLIのシルクベスト、アントワープで16年前に買ったDries van Notenのジャカードタイ、腰に巻いたArtumès & Coのツイードジャケット、MATSUDAの丸眼鏡…などなど。いつどの時代にもこんなヤツいねーよ、という妄想の末に出来上がったらしきコーディネート。やっぱり今の時代ではない(架空の)世界に空想を飛ばしているのだ。


Turnbull&Asserのシャツも袖口のギャザーがロマンチック。昔ながらの革/靴作りを続けるGUIDIもまた、ロマンチック。英国柄のパターン・オン・パターンにGIGLIやDRIESのエキゾチックな世界観がクロスオーバーして国境や時代を超えていくイメージに憑りつかれたようなコーディネートだ。


そう言えば先日、久しぶりに「ミッドナイト・イン・パリ」を鑑賞し直した。主人公はタイムスリップを繰り返し現代〜1920年代~ベルエポックと時代を超えて行くが、どの時代に住む人々も「イマココ」に満足しておらず「昔の方がよかった」と嘆いている。ウディ・アレンが「黄金時代のハリウッド」に憧憬を抱くのと同様に20世紀初頭を生きた芸術家たちもまた、自分が生きなかった前世紀の文化にジェラシーを感じている。“黄金時代症候群”と言われるこのメンタルを現実逃避と受け取るのかどうか。たしかに人は年を重ねるにつれて「昔は面白い時代だった、インターネットも無かったし」「情報はすべて自分の足で集めたもんさ、それに比べていまの若いヤツは…」的なことを、つい口走ってしまいがちだ。しかしどっちみち、いま25歳の若い人も20年後には嘆くのかもしれない。「コロナの前はいい時代だったよ、今と違って仲間同士で集まることも容易だったし…」なんて。自分が住み慣れた世界を、あっという間に置き去りにする猛スピードで時代は冷徹に変わり続ける。今も、この先も。変わること、それだけは変わることがない。

続けて鑑賞した「レイニーデイ・イン・ニューヨーク」ではこんな台詞もあった。「現実は夢を諦めた人が住む世界よ」
ロマンチストのウディらしい、といえばそれまでだが。いずれにしても、人は信じることができる。過去だろうと、今だろうと、未来だろうと。そして、夢見心地で(まぁまぁあっという間に)過ぎ去ってしまうのが人生だ。地位も名誉も、金も、愛も、すべて夢だ。どうせ夢ならば、馬鹿馬鹿しい、あとでちょっと笑えるくらいの夢を見たい。その評価は後世に任せようじゃないか。やはり冒頭にも言ったとおりだと思う。

僕は(抜群に)ロマンチックだ。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。