肩は入るし、ボタンも留まる。横は問題ないとして、残るは縦の問題。そう、身長差以上に腕の長い僕にはこのジャケットの袖丈が4~5㎝短いのだ。内側はハギ出しできるが、袖丈を5㎝出すと切羽の開いた袖ボタン位置が袖口から遠すぎる。幸いなことに、Nさんのジャケットには袖ボタンが二つしか付いていなかったし、ボタンの間隔が2.0㎝ほど離してあった。英国ビスポークなのに、ラペルにはミシンステッチが入っているこのジャケット、おそらくNさんがわざとアメリカンな仕様にしたのだろう。考えた末に、僕はボタンホールを増設することにした。上の写真で下から2番目と4番目がオリジナルのボタンホール。1番目と3番目が国内の工房で新たに手縫いで作ってもらったボタンホール。ボタンそのものはオリジナルをすべて外し、手持ちのリアルホーンボタンに付け替えた。
内側には別の生地を継ぎ足して、袖丈は4cm伸びた。ボタンホール増設のおかげで、ボタンのスタート位置もまあ、許容範囲だ。お直しは無事に完了。あとは、耳にこびりついている「鶴ちゃんなら、バランスを取ってうまく着てくれる」という先輩の言葉と真っ向から格闘するのみ。
結果、出来上がったのはショーツ+ブーツのコーディネート。身長差があるので、厳密にはジャケットのシェイプ位置や着丈、袖の振りは僕の「縦」に合っていない。ならばそれを逆手に取って、パンツのレングスとGUIDIのブーツで「縦」のバランスを更に崩してみた。アンバランスなバランス。
2プリーツ入りのショーツは20年前に古着屋で2000円だったDickie's。を自分でカットオフしたもの。
裾は長年のホツレでボロッボロ。
他人のビスポークを着る。この行為の不完全さやズレ、埋めようと思っても綺麗には埋まらないミゾ。その段差を楽しむという感覚は、ウェットスーツで自分の体を採寸し、いつでも寸法どおりの洋服をオンライン購入できますよー、みたいなゴール地点とは真逆へ向かって全力疾走する感じに似ている。ゴールもないのになぜ、そんなことを?と聞かれても「ワカリマセン」としか答えようがない(笑)。ただ、終わらない感じがして好きなんだと思う。
熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。
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