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STORY

長すぎる靴の話

長すぎる。

これ以上は無いほど簡潔なこの一文はジュール・ルナール著「博物誌」の中にある蛇についての描写だ。名作「にんじん」の著者であるルナールが、彼を取り巻く日常としての“自然”に対して愛情と畏敬の念を込めながら、まるでクロッキーのような素描でいのちの風景を捉えた名著である。例えば蝶(ちょう)に関して彼は「二つ折りの恋文が、花の番地を探している」と綴っている。ほかにも、かわせみや蜘蛛、山羊、豚、馬、鼠に至るまで、身の回りの生き物すべてに対して(時には擬人化を交えながら)美しい言葉のスケッチを繰り広げている。そして蛇についてはただ一言、「長すぎる」。「博物誌」のこの一文を初めて読んだ12、3歳の僕は、子供心にミョーにナットクしたことを今でも覚えている。そう、僕は蛇が嫌いだ。大っっっ嫌いだ。長すぎるのだ。
小学生のころ、動物図鑑をめくっていたら「木の上で大きなとぐろをぐるぐると巻いて、もはやダンゴ状になっている蛇」のページで吐きそうなくらい気持ち悪く感じたのに、少しすると再びそのページを恐る恐る開いてしまったりとか。で、またオエッとか。僕が6歳だった頃、隣近所の福山君宅の庭に大きな青大将が現れたときは、福山・父が物干し竿を持ってきて格闘の末に側溝の中へ蛇を追いやる姿を僕はビビッて50mくらい離れた位置から見守っていた。このコラムを書いている今も、蛇の長さを思い出してちょっと気持ち悪くなっている。生理的にムリなんだろう。その僕が、蛇柄の靴を買った。


アニマル柄のトレンドが、なかなか終わらない。5年前にはもうすっかりキテたのに、終わるどころか、CELINEでは今もレオパード柄が頻出するし2020秋冬のDries van Notenではパイソン柄のシューズがアイコニックに足元を飾っている。GUCCIもsacaiも、まだまだアニマル柄なのだ。共通して言えるのはリアルファー減退の世界的な流れをアニマルプリントでポジティブに捉えた、という感じだろうか。どちらかというとトレンドとは一定の距離を置いているコンサバ志向の僕も、この秋ついに手を出してしまった。

一足目はREPRODUCTION OF FOUNDのスニーカー。「1940年代のUS NAVY TRAINERSをベースに…」となっているけど実物を見たことがない僕には「ほぼERA」に見える。ともかく、VANSを履かない僕も軍モノならば履ける。本来はキャンバス地であろうアッパーをスエード素材に変更してレオパード柄のプリントを施してある。


そして二足目が問題の蛇柄靴。1989年、スペイン屈指のレザーシューズ産地であるアリカンテでウエスタンブーツの生産を中心に創業したJohnny Bullsのサイドエラスティックブーツ。表面はパイソン柄の型押し&プリント。しかもネクストトレンド最先端のスクウェアトゥ。2万円前半という安価な靴だが、本格靴のクオリティは求めずにノリを重視すれば、むしろ納得のコスパ。このフェイク感が蛇嫌いにはちょうど良い。

このフェイクパイソンのスクウェアトゥブーツをフレンチロックなテイストで黒っぽく合わせると大火傷しそうだ。20代ならいざ知らず、90年代後半をリアルタイムで経験した僕がやると、Jean Colonnaのニセモノみたいになること必至。

というわけで、擬似ウインザースタイルにフェイクパイソン柄をオン。当時、良識のある王族が眉を潜めたウインザー公の過剰な着こなしをK点だとすれば、その5m先に着地。なんなら、転倒してるのかも(笑)。なんて、ここまで長々と書いてきて、ふと思った。「蛇嫌いなのに蛇柄の靴を買いました」と、ただそれだけの話がこんな長文になるなんて。もしかすると、同族嫌悪なのだろうか。

蛇も鶴田のコラムも「長すぎる」。短歌でも研究してみなよ、自分。蛇なんか、大っっっ嫌いだ。

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。2020年よりビームス銀座店勤務。社内外へ活動の場を広げながら、ますます精力的に執筆や商品企画に取り組んでいる。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。