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STORY

洋服のレシピ

ミックスナッツのハチミツ漬けを作ってみた。
作り方はいたって簡単。軽くローストしたナッツを適当な瓶に詰めてハチミツを注ぐだけ。漬け込む期間によって仕上がりは異なるが、2週間ほどでナッツが少しシットリした食感に変わりハチミツにもナッツの香りが移る。これをヨーグルトに入れて食べると体にいいらしい。今回使用したのは国産の生ミックスナッツ(無塩)とシチリア産のオレンジフラワーハニー。ともにオーガニック。体に良さそうでしょ?


ナッツを瓶に詰めながら「ある洋服」を思い出した。Frank Lederの別ラインでessence(エッセンス)というブランドがある(あった)。たしか2005年ごろだったか、当時渋谷のキャットストリートにあった某店で一着のジャケットを購入した。軽く試着して「これ、ください」とお会計に。当時、Frank Lederのジャケットは軒並み¥88,000+税だったので、まぁなんとなくそのつもりで会計の準備をしていたら、スタッフに提示された金額は¥138,000+税だった。高っ!と思ったけど、冷静沈着を装いながら支払いを済ませ、ジャケットと瓶を持ち帰った。…って、瓶…?このessenceのジャケットには梅酒を漬けるようなサイズの「瓶」と、紙に書いた一枚の「レシピ」が付属されていた。

レシピには「グレープフルーツジュース40%、アップルジュース30%、赤ワイン30%」みたいなことが書いてあった。そう、ジャケットを瓶の中に押し込みレシピ通りの液体で漬けるのだ。たまに瓶の中で上着をひっくり返しながら1週間ほど漬け込むと、元々は生成り色のコットンツイルだったジャケットがムラのあるピンクベージュに変わっていた。ジャケット自体は随分前に後輩にあげてしまったのだが、このコンセプチュアルアート的な体験は僕の中に今も染み渡っている。イタリア人デザイナーAntonio Marrasのコレクションにも、たしか紅茶で染めたシャツがあった。紀元前2000年よりももっと昔から人間には染色の歴史があるらしい。1800年代半ばに人工染料が発明されるまで約4000年もの間、人間は草木や卵、血液などを使いながら衣服を染めてきた。その意味や意義は色々あるのだろうが、つい15年前に染色というロマンティックな思想に取り憑かれたデザイナー達がいた。ただ、それだけだ。「漬け物に使うくらいなら、飲んだ方がいい」なんて了見になってしまった現在の僕は「このナッツ漬け、チーズに乗せたらワインが飲める味になるよな」とか考えたりして。って、どこが体にいいんだよ。

〈古いPCにかろうじて画像が残っていた〉

Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。