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STORY

黒衣と皇帝

カール・ラガーフェルドが亡くなった。85歳だったそうだ。故郷のドイツからパリへ移住した彼は16歳でIWS(国際羊毛事務局)主催のコンクールで優勝(コート部門)し、早くもその才能の片鱗を世界に認められる。翌年にはPIERRE BALMAINで働き始め、3年後にはJean Patouへ移籍。名だたるクチュールメゾンで経験を積んだ後、一時ファッション業界から離れるが、1967年にFendiのデザインコンサルタントとしてカムバックすると、その後Chloéのデザイナーを経て1983年にCHANELのデザイナーに就任。と、彼の経歴を見直して驚く。つまり、僕が5歳の頃には既にCHANELを率いていたし、モヒートの山下氏が生まれた頃にはFendiを手がけていたことになる。そして2019年2月19日に亡くなるまで70年近くもの間ファッション界の、しかも第一線で働き続けたという事実。サラリーマンの35年ローン2回分という想像を絶する長さだ。

2012年発行の写真集「The Little Black Jacket」はココ・シャネルが1954年にデザインしたアイコニックな黒いジャケットを世界中の著名人が着こなす姿をフォトグラファーとしてのカール・ラガーフェルドが撮りおろしたものだ。アナ・ウィンターなどファッション界の重鎮に混じって日本からも蒼井優、椎名林檎、菊地凛子などが参加している。


それぞれがキャラクターを生かして古典的なジャケットと一体化しているが、個人的なベストショットはティルダ・スウィントン。出版を記念して青山で開かれた写真展では本に収録されたものとは別のカットでティルダのシャープかつクールな横顔を拝ませてもらった。80歳を目前にしたカールがなおも追い求めた美。クラシック(ココ・シャネル)との対峙。業界に入って20年程度で井の中の蛙にならないためにも、この写真集はたまに見返して自らの甘さを思い知るための、美しい教材だ。心よりご冥福をお祈りいたします。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。