ちょうど30年前、ボクが22歳の頃このデッサン学校に通っていた。パリ14区メトロVAVIN駅近くにある『アカデミー ドゥ ラ グランショミエール』と言う名だ。この学校の歴史は古く、彫刻家ザッキンも自らのアトリエを構えながら教鞭をとっていたそう。ボクは滞在許可証目当ての通学でちょいと不謹慎ではあったが、セツ・モードセミナーにも似た何とも言えないファインアートが生まれる現場感は素敵な空気と油絵の具の臭気が相まって大好きな場所だった。実は7年前にも懐かしくてここを訪れており、その時撮らせてもらった内部写真がこちらの2枚・・・。
このビジュアルの中にいるとセツ・モードセミナーの教室なのか忌野清志郎的美術室なのか解らなくなる無国籍感がある。当時のボクらも、中央の水色の台の上に立つヌードモデルのポーズを半円に囲んでしきりにデッサンする日々でした・・・。
この学校のあるエリアは通称モンパルナスと呼ばれ、ピカソ、コクトー、藤田嗣治、モディリアーニ、彼らの経済を支えていたココ・シャネル、そんなレジェンド中のレジェンド達が日々酒を酌み交わしていた。そのカフェ、ブラッスリーが学校の目と鼻の先にあるのだ。
LA ROTONDE そして、
Le Dome.....今回のパリ滞在で現地在住の友人とディナーの約束を交わしていた。ボクがこのグランショミエールに通っていた事を知っていた彼は何と学校の隣のビストロを予約していてくれた。その名は『WADJA』友人曰く、30年前からここにあったそうで当時全く気が付かなかった。今では予約無しでは席にも着けない人気店で味もサーヴィスも秀逸な隠れ家的ビストロだ。
何とも複雑な気分だった。あの頃は、孤独と空腹と将来への不安しかなかったこの通りで30年後にこうしてご飯を食べている。とにかく、これだけの長い間、好き勝手な事だけをやらせていただいてきて、なんとか生かして貰えている事をこの学校の美の神様に感謝しつつ合掌、、、
では、お祈りも済んだところで厳かに超絶ガストロノミーSTART!!
まずは、アントレとして選んだのがこちら!
生牡蠣なんですが、白いペーストは卵白にライムが混ぜられたもので、牡蠣の野性味にコクとキレをプラスした未体験の味覚であった。そしてメインはこちら・・・。
リードボー(子牛の胸腺)のソテー、マロンソース このこってりとした、いわゆる痛風まっしぐらなほど美味しい、罪深いお味の源は、脂身でもなく肉でもなく内臓でもないこの胸腺。この部位の組成とは一体なんなんでしょう?日本ではせいぜい名刺サイズくらいが一般的だと思いますが、ここおフランスでは大人の手のひらの大きさは十分ございます。命がけの逸品、忘れ得ぬ味となりました。大満足で店を後にし、そこで大きく深呼吸。雨の止んだ直後のモンパルナスの空気は清く澄んでおりました。地下に下りると懐かしいメトロの駅看板
補修中の壁には以前の白タイルの名残がほんの少し。思い出の場所の再訪は不思議な感触に包まれていた。決してセンチメンタルな気分なのではなく上空から俯瞰で眺めている様な、そんな説明不能なモンパルナスの夜だった。


















