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STORY

やってこないミライ

むかし見たミライってどんなんだっけな?

「レトロフューチャー」という言葉がある。「懐古」と「未来」が入り交じった不思議な言葉。まぁ分からんでもない。少年のころに「そうだったらいいのにな」と思い描いた近未来と現実(実際にはとてもそうならないであろう未来)とのギャップ、そして郷愁。スペースシャトルが月面着陸した1960年代に夢見た「2001年宇宙の旅」(1968)のようなスペースエイジはいまだにナカナカやって来ない。それどころか2001年、僕らは9.11という悪夢のような現実に打ちひしがれていた。かの映画で衣装を担当した英国王室御用達のドレスメーカー、Hardy Amiesは自身の著書で語っている。「西暦2000年には5つボタンの上着が一般化する」と。勿論、5つボタンのスーツはもう何十年も流行っていない。

いわばレトロフューチャーとは「残念会」のようなものだ。あんなに楽しみにしていたのに、実際にはそうならなくてゴメンナサイね、という。

僕が1年半前に購入したlipの時計には、そんな「残念」が付きまとう。ナチュラルレザーとブラスのコンビネーションでミニマルにデザインされているが、視認性は極めて低く、そして重たい。コンセプチュアルな未来性は確かにデザインされているが、その機能性に恩恵を受けたことは(CASIOのデータバンクと同様に)いまだ、ない。1971年にデザインされたこの時計には2018年時点で役立つ機能がなにひとつ搭載されていないのだ。

洋服好きな人はロマンチストだ。これには「お洒落にしていればモテる」という「機能性重視」の人は含まれない。モテなくても夢を見る。使い道はないけど好きだ。多分、そんな人に向けてデザインされたであろうこの時計を僕は、やっぱり今も好きだ。

中世までは「敵の城への侵入を警戒して見守る」という意味で使われていた「watch」という動詞。その任務にあたる兵士を watchman(警備員やガードマン)と呼んだらしい。時計を見ることが生死に関わるというロマンチシズムにこそ男は惹かれるのかもしれないし、機能性が低い時計のデザインに時間を割いたデザイナーの人生に敬意を払っているのかもしれない。

むかし見たミライってどんなんだっけな?
Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。

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