Fit in Passport に登録することで、あなたにフィットした情報や、Fit in Passport 会員限定のお得な情報をお届けします。

ページトップへ

STORY

実用から出たパンク

なんとなく靴が欲しくなった。勿論、昨年も色々と買ったんだけど、また欲しくなった。プレーントゥが欲しくなった。それはたぶん、昨年購入した靴がプレーンじゃなかったせいだろうと思う。PARABOOTのYOSEMITE(トレッキングシューズ)、Crockett&Jonesのギリーシューズ、そしてウエスタンブーツ×2。ほかにも赤いスニーカーとかをちょろちょろ買ったのが2023年。ほらね、全然、プレーンじゃないでしょ?クセしかない。だから、プレーントゥが欲しかった。勿論、すでに持ってはいる。すぐに思い出したのは10年くらい前に買ったF.lli Giacomettiのビブラムソール搭載のプレーントゥ。久しぶりに引っ張り出してみたらアッパーはまだまだ元気だったけど、当時かなり頻繁に履いていたせいか、靴ひもはちぎれ気味で踵もすり減っていた。要・メンテナンス状態。ということで、同じくF.lli Giacomettiのプレーントゥを新たに買い足した。


で、買った靴本体のことは別にどうでもいいんだけど、何故プレーントゥが欲しかったかという点が本日のお題。毎日お店に立っていらっしゃいませと言っていた頃に比べると、現在の僕は外を歩き回っていることが意外と多いことに気付いた。そのせいだろうか、この冬はYOSEMITEのトレッキングシューズが随分と活躍したもんだ。つまり、軽快な履き心地のゴム底が良かったんだと思う。履き心地だけでなく、今回は更に見た目もコーディネートを邪魔しないあっさりデザインが気分だったので、デコラティブな靴はちょっとお休みのターン。というわけで手に入れたのはF.lli Giacomettiのシャークソール付きスコッチプレーントゥ(ゴム底と言いながら、なぜ意地でも革靴を選ぶのか?的な疑問はサラっと流していただきたい)。いかにもガシガシ履けそうでしょ?そして、せっかくだから、シューレースも実用的に替えてみようと思った。



選んだのは、SALOMONのクイックシューレース。このブランドの靴自体は前職時代に取り扱っていたし、このシューレースの便利さも十分理解していたけど、当時から僕の気性には合わなかった為かSALOMONのシューズ自体は買ったことが無い。しかし、今回の靴選びはルックス云々というよりも機能性重視だった為、このシューレースのことをすぐに思い出すことができた。レッドやイエローも売ってるけど、ファッション的なアピール・面白さは(今の自分のタイミングでは)不要だったため、ストイックに黒をチョイス。


アイレットにシューレースを通して、長さをカットして、カットした部分をライターで焼いて整形して、パーツをはめたら完成。ワイヤー状の細いひもがスルスルと滑るように動くため、6穴もスムーズに締め上げることができる。プラスチックのパーツをギュッと絞り上げて固定すれば、終わり。紐を結ばなくてもいいし、緩みも気にしなくていい。プラスチックが多少はブラブラするけど、それはギリーシューズのタッセルも同じこと。



これほど実用性に走った靴選びは久しぶりだったので、逆にコーディネートが楽しくなりそうだ。本格靴にトレイルランニング用のシューレース。実用を追いかけた結果、おフザケに見えるのか。なんだか靴まで玩具っぽくなったような気がするので、ナイロンパンツとかジャージとか、キッチュな色物と合わせたら楽しそうだと思った。夜中に靴の写真を撮りながら、ふとリビングのテーブル上を見たところ、子供達が遊んだあとのNintendo Switchに目が留まった。そういえば、最近は子供らと一緒にゲームで遊ぶ機会が増えた。スプラトゥーンやスマブラのキャラクターたちが日常的に視界に入ってくる。あれ?もしかすると、そのあたりにインスパイアされているのかも。ダークスーツサムスは相変わらずカッコいいし、スプラトゥーン3のキャラクターはみんな抜群にお洒落だ。大人の僕だって、きっと無意識のうちに刺激を受けているはず。実用性から思いついたはずなんだけど、このクイックシューレース付きF.lli Giacomettiからはどことなくサイバーパンクのにおいする。何がどのように作用して「人間の気分」が出来上がるのかなんて分かりようがないけれど、どこからともなく湧き上がってくる「今の自分の気分」に軽く乗っかってみれば一生退屈しなくて済みそうな気がする。夜中に真剣な顔して靴ひもを取り換えながら遊んでいる間に人生が過ぎ去るんだとしたら、それって中々に贅沢なことじゃない?まるで、夏休みの小学生みたいで。あとは、それがDIYであれば、なおさらのこと。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。