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STORY

LEMMERMAYERではありえない

アンサンブル(仏:ensemble)とは、音楽の世界で用いられる言葉で、複数の楽器や歌声が一緒に演奏されることを指す。 アンサンブルは、各楽器や歌声が協調して一つの音楽を奏でるため、その調和が重要となる。らしい。

洋服で言えば「組み合わせてひと揃いにした」的な意味になるので、広義ではジャケット&トラウザーズやスリーピースのスーツだって立派なアンサンブルってことになるんだろうけれど、ファッションにおけるアンサンブルというと昔からなんとなく女性が着るニットonニット、つまり共地で作られた半袖ニットとカーディガンの組み合わせをなぜだか想像してしまう。そして、高円寺の古着店・Bon VieuxのためにNEJIが企画するアイテムの第5弾は、ニットのアンサンブルだ。言葉のイメージ通りに、共地の半袖ニットとカーディガンを作ってみたのだが、ちょっとツイストしている点はその素材。アルパカニットといえば7~8年前に当コラムでも紹介したことのあるFANNI LEMMERMAYERだが、今回はペルー産のアルパカニットでアンサンブルを企画してみた。




数年前からお付き合いのある取引先の方と話をしていて「アルパカニットで何か作りたいですね」という話になった。実は3年ほど前にBEAMS fのオリジナル商品として同メーカー同素材のニットを企画したことがあったが(僕はIneternational Gallery BEAMS担当だったので、あくまでも黒子役として)、その時はfレーベルの特色に合わせ極めてベーシックなスタイルの長袖ニットを作った。今回はもう少し遊んで、半袖ニットポロ、半袖丸首ニット、長袖カーディガンの三種を提案。僕が私物で持ち込んだウェールズ産の半袖ニットを元に、襟や首元、袖口には2本のラインを入れることにした。ネイビーベースに白ラインという配色は、永遠にクラシックなカラーリング。ライン間のピッチ、ボタンの数、ポロ襟の形状なども細かく指定した結果、数か月後に上がってきたサンプルは非常に素晴らしい仕上がり。これは大傑作の予感。




ちょっとレトロなムード、ともすれば古着屋の隅っこに積んでありそうな感じもするけれど、1960~70年代のアイテムだとしたら素材はきっとカサカサのアクリル製だろう。このアルパカニット、件のFANNI LEMMERMAYERと同じリンクス・オン・リンクス(パール編み、編地に表裏が無い)で編み立てられており、まるで鹿の子でも着ているかのような軽快な肌触りが特徴だけど、実際にFANNI LEMMERMAYERと同じドイツ・ストール社のマシーンでこの編地は作られている。現在ではヨーロッパはおろか日本、中国にもこの編地を表現できる編み機は殆んど現存しておらず、パール編みが可能な旧式の編み機はFANNI LEMMERMAYERしか持っていないらしい。一方で、1990年代半ばまで共産主義が色濃く反映されていたペルーにはこのタイプの編み機が多く存在し、いまも一定数が現役で稼働しているためLEMMERMAYERに比べるとリーズナブルなプライスでリンクス・オン・リンクスが再現できるという。というわけで、触ってみるとほぼLEMMERMAYER、しかし値段は半分以下。なによりも、僕らが提案した「ライン入りニットアンサンブル」というマニアック企画を受け入れて見事に製品化してくれた柔軟さは、LEMMERMAYERではありえない。




Bon Vieuxの大島氏と企画会議をするときに、僕と彼が口をそろえて言うのは「〇〇風では意味がないよね」ということ。本来は高級なものの廉価版をオリジナルアイテムとして作ることには意味がない。だってそうでしょ?だったら本物を買えばいいじゃん。だったらジョンスメを買えばいいじゃん。だったらエルメスを買えばいいじゃん。だったらジョンロブを買えばいいじゃん。だったらレマメイヤを買えばいいじゃん。高くて買えない?だったら買わなきゃいいじゃん。日本人は、何故だか昔から「本来はお金持ちや趣味人しか買えないはずの高級なものを、一般庶民までもが等しく欲しがる」。僕らがオリジナルアイテムを企画する意義は「高くて買えない憧れアイテムの廉価版を作って一般の方々にまで〇〇風を行き渡らせること」ではなく、本物だけが持つ歴史とかクオリティとかラグジュアリーとは違う角度から、本物を切り崩していくことだ。




ということで、アルパカのニットアンサンブル。勿論、単品でお買い上げ頂いても、その効果は絶大。レトロスポーツなムードとハイクオリティなパール編み。こんなテイストミックスはLEMMERMAYERではありえない。本家とか廉価版とか、そういった勝ち負けはまるで関係なく、これはこれで立派な別物。つまり、オリジナルだということ。偉人やセレブリティの物真似につばを吐く、「本物」の洋服好きの方にこそ手にとって頂きたい。結局のところ、着用者と洋服が自分らしいアンサンブルを奏でてこそのファッションなのだ。


『NEJI pour Bon Vieux』2LINE ALPACA KNIT ENSEMBLEは2024年3月9日(土)、高円寺Bon Vieauxにて発売予定。
Bon Vieux 東京都杉並区高円寺南3-37-1
不定休

Instagram@bon_vieux_
Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。