Fit in Passport に登録することで、あなたにフィットした情報や、Fit in Passport 会員限定のお得な情報をお届けします。

ページトップへ

STORY

二面性アンダーソン

二面性のない人間なんて、いない。

いきなり何だ?と言われたら、「KINLOCH ANDERSON」のイメージルックをスタイリング/ディレクションするにあたり、僕が考えるスコットランドについての話だと答えよう。一般的にファッションにおけるスコットランドと言えば「タータンやキルト、フェアアイルのニット。或いはゴルフ発祥の地(諸説あるのか?)」というイメージが強く、いずれにしても雄大な大自然に似合う素朴でスポーティーなアイテムを連想する人が多いだろう。それはそれでひとつの答えだと思うし、スコットランドから見ると外国人である僕らがどれほど歴史をさかのぼり情報を集めて知識を増やしてみたところで本国に暮らす人々の感覚には程遠いのかもしれない。というか「ホントのところ」なんて誰にも分かりようがないじゃないか。「ホントのところ」が分かると言い切ってしまう人を見ると、それはある種の傲慢さだと僕は思ってしまう。しかし、イメージのかけらを集めて想像を膨らませることはできる。「実際はそんなんじゃない!」と頑なに拒んでみたところで、一個人の中にある「ホントのところ」なんて僕は信じていないし、ソフィア・コッポラやヴィム・ヴェンダースが撮る東京の景色だって、あれはあれでひとつの形なのだから。どちらにしても、硬直した視点で「ホントのところ」を追求する姿勢は僕に向いていない。

2024年秋冬から僕がディレクションを手掛ける「KINLOCH ANDERSON」には二つのラインが存在するので、スコットランド云々よりも前に、まず僕は人間の二面性について表現してみることにした。

 






タイドアップとシャツの裾出し、短い着丈のトップスとワイドなパンツ、女性がサイズアップして穿くルーズなボトムスと男性がジャストサイズで穿くコンパクトなボトムス、笑顔と真顔、茶系のグラデーションと白黒のモノトーン…。カジュアルライン「KINLOCH ANDERSON」のライトで都会的で快活なムードはそのままに、様々な二項対立をテレコに盛り込んだイメージルック。




一方で、新設のドレスライン「KINLOCH ANDERSON 1868」のイメージは、よりクラシカルなアイテム群を古典的なパターンオンパターンで組み合わせた構成。複雑な色柄のコーディネーションも、アイテムそのものがローコントラストなカラーリングなので全体的に優しくマイルドにまとまったと思う。



ポリエステル素材のバルマカンコートは裏地にスコットランド製のタータンを使っているので、インサイドアウトで着ると美しいカラーブロッキングが際立つ。実際に裏返しで着る人がいるかどうかはさておき、ついつい見せたくなってしまうほど丁寧な仕立て。




同じコートを男女兼用で着せたルックは、マイクロミニ丈のキルトスカートとたっぷりワイドな2プリーツパンツなどボトムス次第でバランスが大きく変化する。一枚袖のラグランスリーブは着る人の肩幅に合わせて生地が落ちるので、本国で織られたタータンクロスが優雅に揺れる姿を存分に楽しみたい。



フェアアイルのニットベストをタンクトップライクに、クラシカルなグレーパンツを腰穿きでルーズに着崩したルック。優等生イメージなキルトスカートをレザービスチェとカラータイツで猥雑にコーディネートしたルック。どちらもパンキッシュなムードだが、ニットベストもキルトスカートもスコットランド製の本物であるため、どこか気品が漂う仕上がりになったと思う。

 


【KINLOCH ANDERSON / Autumn & Winter 2024】
MODELS: SHUHOU OONO, AKEMI, MIOKO, ZEN, KOTA
PHOTOGRAPHY: KEI HOMPO
HAIRMAKE: Bibito
STYLING/DIRECTION: NEJI

カジュアルラインとドレスライン、それぞれの中にもまた入れ子構造のように二面性が潜んでいる。そして、それらを縦横無尽に組み合わせていけば、それは単純な「二項対立」と呼ばれるには程遠い無限の選択肢に繋がっていく。人間は白と黒にきっぱりと分けられるほどシンプルには出来ていない。現在の社会は「無罪か有罪か」を激しく突き付けてくる二者択一の連続により、漂白化がますます加速し始めているような気がする。世の中には「ホント」と「嘘」の二種類しか存在しないわけではない。他人に分かりやすく説明する上で、暫定的に便宜上使われている二項対立の言葉、例えばファッションにおける「カジュアルorドレス」「クラシックorモード」という言葉を本心から信じ切ってしまった時点で思考は停止する。「ホントのところ」なんて誰にも分かりようがないじゃないか。「ホントのところ」が分かると言い切ってしまう人を見ると、それはある種の傲慢さだと僕は思ってしまう。二面性があるということは多面的であるということ。結局、僕が提示したかったのは「KINLOCH ANDERSONには二つのラインがあります」ということではなくて、「スコットランドは(つまり世界は)多面的である」ということでしかない。そして、それを受け入れることなしに、他人を、自分自身を認めてあげることなんてできないんじゃないか?というイメージのルック。


Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。