タイドアップとシャツの裾出し、短い着丈のトップスとワイドなパンツ、女性がサイズアップして穿くルーズなボトムスと男性がジャストサイズで穿くコンパクトなボトムス、笑顔と真顔、茶系のグラデーションと白黒のモノトーン…。カジュアルライン「KINLOCH ANDERSON」のライトで都会的で快活なムードはそのままに、様々な二項対立をテレコに盛り込んだイメージルック。
一方で、新設のドレスライン「KINLOCH ANDERSON 1868」のイメージは、よりクラシカルなアイテム群を古典的なパターンオンパターンで組み合わせた構成。複雑な色柄のコーディネーションも、アイテムそのものがローコントラストなカラーリングなので全体的に優しくマイルドにまとまったと思う。
ポリエステル素材のバルマカンコートは裏地にスコットランド製のタータンを使っているので、インサイドアウトで着ると美しいカラーブロッキングが際立つ。実際に裏返しで着る人がいるかどうかはさておき、ついつい見せたくなってしまうほど丁寧な仕立て。
同じコートを男女兼用で着せたルックは、マイクロミニ丈のキルトスカートとたっぷりワイドな2プリーツパンツなどボトムス次第でバランスが大きく変化する。一枚袖のラグランスリーブは着る人の肩幅に合わせて生地が落ちるので、本国で織られたタータンクロスが優雅に揺れる姿を存分に楽しみたい。
フェアアイルのニットベストをタンクトップライクに、クラシカルなグレーパンツを腰穿きでルーズに着崩したルック。優等生イメージなキルトスカートをレザービスチェとカラータイツで猥雑にコーディネートしたルック。どちらもパンキッシュなムードだが、ニットベストもキルトスカートもスコットランド製の本物であるため、どこか気品が漂う仕上がりになったと思う。
【KINLOCH ANDERSON / Autumn & Winter 2024】
MODELS: SHUHOU OONO, AKEMI, MIOKO, ZEN, KOTA
PHOTOGRAPHY: KEI HOMPO
HAIRMAKE: Bibito
STYLING/DIRECTION: NEJI
カジュアルラインとドレスライン、それぞれの中にもまた入れ子構造のように二面性が潜んでいる。そして、それらを縦横無尽に組み合わせていけば、それは単純な「二項対立」と呼ばれるには程遠い無限の選択肢に繋がっていく。人間は白と黒にきっぱりと分けられるほどシンプルには出来ていない。現在の社会は「無罪か有罪か」を激しく突き付けてくる二者択一の連続により、漂白化がますます加速し始めているような気がする。世の中には「ホント」と「嘘」の二種類しか存在しないわけではない。他人に分かりやすく説明する上で、暫定的に便宜上使われている二項対立の言葉、例えばファッションにおける「カジュアルorドレス」「クラシックorモード」という言葉を本心から信じ切ってしまった時点で思考は停止する。「ホントのところ」なんて誰にも分かりようがないじゃないか。「ホントのところ」が分かると言い切ってしまう人を見ると、それはある種の傲慢さだと僕は思ってしまう。二面性があるということは多面的であるということ。結局、僕が提示したかったのは「KINLOCH ANDERSONには二つのラインがあります」ということではなくて、「スコットランドは(つまり世界は)多面的である」ということでしかない。そして、それを受け入れることなしに、他人を、自分自身を認めてあげることなんてできないんじゃないか?というイメージのルック。
1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。
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