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STORY

魂のアディレッタ

たしか2004年頃だったと思う。当時、Bob Marley や The Clash ばかり聴いていた僕は、黒ベースに赤、黄色、緑=ラスタカラーのスリーストライプスが配されたゴム製スリッパ、adidas の adilette(アディレッタ) を近所履き用に買った。


このシャワーサンダルがファッションアイテムとしてトップトレンドに踊り出たのは今から2年ほど前かと記憶している。当時(2016-17)は当店・インターナショナルギャラリー ビームスでも RAF SIMONS から VERSACE まで、ハイブランドのシャワーサンダルを取り扱っていた。このブームの更に1年前、トレンド先取り気分で13年前のアディレッタを引っ張り出した僕は、ソックスやスーツに合わせて遊んでいたが、いざ本格的な流行になり街中でシャワーサンダルを見かけるようになってからは静かに靴棚の奥へ再びしまいこんだものだ。つい先日、都内某所の公園にある池で水遊びをするために僕はラスタカラーのアディレッタを再び引っ張り出した。踝まで水に浸かり、子供たちと水を掛け合いながら遊んだ帰り道。「あっ!」遂に左足のストラップがソールから剥がれ分解しまったのだ。パカパカのサンダルを手に持って、裸足で歩いて帰るしかないのか…?と、商店街で買ったお土産用の焼き鳥をぶら下げていた僕は、おもむろに包み紙を留めていた輪ゴムを外し、三本線の上から巻き付けて、なんとかその場は履いて帰ることができた。帰宅後、今では売っていないラスタカラーのアディレッタ(輪ゴム付き)を見つめながら、若い頃に夢中で聴いていた音楽を思い出した。14年も履いたし、思い入れがある。せめてもの供養にブログに書こうと決めた。3日後、輪ゴム付きサンダルを写真に撮ろうと思ったら、ない。ない、ない。何処を探しても、ない。

「捨てたわよ」「えっ?」

妻から見たら単なる古いゴム(輪ゴム含む)の塊。そりゃそーだ。しかし僕にとっては魂のアディレッタ。塊(かたまり)と魂(たましい)。似て非なるもの。「Amvaiの記事にしようと思っていた」ことを口惜しそうに伝えると「あぁ、そりゃゴメン」と妻。


数日後、帰宅した妻が「おみやげよ」とぶら下げていた袋には新しいアディレッタが入っていた。ワインレッドのワントーンで洒落た配色だった。安全地帯でも聴こうか、と思った。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。