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STORY

日本のツイード

今から6年前、長女の初節句に妻方の両親から二組の雛人形を送られました。ひとつは久月製の(我が家には十分すぎるくらい)立派なもの。もうひとつは7×15cmほどの台座に乗った小さなものでした。今年もこの小さな雛人形をリビングに飾りました。ミニサイズのお内裏様とお雛様は鮮やかな発色の美しいツイードで作られた着物を着て、窓際にチョコンと鎮座しています。日本産ツイードと言えば、尾州の英国的なツイードや東北の手紡ぎホームスパンなどが思い浮かびますが、我が家に送られたこの雛人形は北海道出身の義母が旭川市にある「優佳良織工芸館」で買い求めたものでした。国際織物ビエンナーレ(1978、ハンガリー)で金賞を受賞した歴史を持つ優佳良織ですが、国内ではあまり知られていないようです。


この織物は染織作家・木内綾(1924―2006)の創作によるものが発祥で、初めは「ユーカラ織」と表記していたらしいのですが、1980年代に版画家・棟方志功の命名をもとに「優佳良織」と改められたそうです。


ビームスでは Fennica というレーベルで優佳良織の製品を取り扱っています。数年前には北海道にある国内唯一の馬具メーカー・ソメスと協業して、優佳良織ツイードを使ったレザートートバッグを製作しました。L.L bean型の革鞄と油絵のような繊細な絵柄のツイードが、世界中のどこを探しても無いオリジナリティ溢れるコンビネーションを見せています。

ソメス×Fennicaのレザートートバッグ 各¥54,000+税(インターナショナルギャラリー ビームス)
http://www.beams.co.jp/brand/900235/

北海道の自然や風土をモチーフとしている優佳良織は多彩な色使いが特徴で、僕のお気に入りはツイードのタイです。

MP di Massimo Piombo のリネンジャケットと優佳良織のネクタイ。大剣幅 5cm 程度に織られたツイードの一枚仕立てです。剣先はフリンジのまま処理され、素材を無駄にしないよう作られています。

手織りツイードのネクタイと聞いて「ほっこり感」「おみやげ感」を連想する方もいらっしゃるでしょうか?手織り生地のフリンジ付きネクタイと言えば、かの濱田庄司ですが、彼の世界観こそ「ほっこり」の対極にあると言えます。日本家屋にイームズのラウンジチェア、ですよ?そもそも民芸が本来持っている「研ぎ澄まされた強さ」は、緊張感のあるドレスアップスタイルにもハマるものだと思います。冬場は Alexander McQueen のチェック柄のセットアップやベルベットのスーツなどに、春夏はガサッとしたリネンのジャケットにこのタイを合わせて楽しんでいます。日本では、ここ数年のうちに駅ビルの中でも気軽に「民芸風」を買うことができるようになりましたが、何でも「ほっこり」「かわいい」流行にしてしまうことで、あっという間に消費してしまうのは日本人の悪いクセです。我が家のお雛様は娘に、ネクタイは息子に受け継いでいけたらいいな、と勝手に思っているのですが…。もし息子が成人式に手織りツイードのネクタイをするような大人に育つとしたら、それはそれで、ちょっと心配かもしれませんね(笑)。

ちなみに旭川にある優佳良工芸記念館は諸事情が重なり2016年より長期休館となってしまいました。伝統的なものだからといって、いつでも手に入るというわけではないのです。
Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。