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STORY

エロス/タナトス/エコノミクス

先日、ふと思ったのは「のぞき」をテーマにした映画作品ってケッコー多いよな、ということ。パッと思いつくだけでもヒッチコック『裏窓』('54)、パトリス・ルコント『仕立て屋の恋』('89)、市川昆『鍵』('59)などなど。好奇心、純愛、エロスまで動機は様々だとしても、「隠してあるから見たい」「見てはいけないからこそ見たい」という欲求は人間なら誰しもが持つもの。勿論、のぞきは犯罪。ダメ、ゼッタイ!

アーヴィング・ペン撮影によるアルフレッド・ヒッチコック。「 ON THE EDGE images from 100years of VOGUE 」より。

昨今は Instagram などの SNS を通して、著名人などの私生活を「のぞき見」することが世界中に普及しているわけですが、よく考えてみたらこれ「のぞき見」じゃないですよね?だって、相手は見て欲しくて見せてるんだから。つまり向かいの部屋を双眼鏡で覗いてるんじゃなくて、下着姿で外をうろうろ出歩いている人を見ているだけ。勿論、経済効果や承認願望的な下心があるから本人も「見て欲しい」わけなんですけど。ただ、「隠してあるから見たい」という欲求を刺激しない分だけエロスはありませんよね。全部見せちゃあオシマイよ、っていう(笑)。逆に、これ( SNS 拡散)を経済活動だと捉えたら、見せないと商売にならないわけです。例えばオンラインショップで売る商品のブツ撮りはディテールまで全部見せなくちゃならない。一方でファッション写真ならば全部が写っている必要がない。カタログじゃないんだから。その分だけファンタジーやストーリーを想像できればいいわけです。

いま世の中はロゴブーム。全身にロゴが入ってるので「そのダウンどこの?」と聞くまでもなく「見りゃわかる」という「全部見せファッション」が大流行。というか「他人に見て分かってもらわないと大枚ハタいて買った甲斐がない」という意図なので、これも立派な経済活動。トラディショナルなアイテムが持つアノニマス性はこの対極に位置します。見て分かるのは服オタクだけなので。さらに言うと、トラッドアイテム(フツーのラムウールのセーターやボタンダウンシャツ)に馬のロゴを入れて大成功をおさめたのがラルフローレンだと個人的には思っています。立派なビジネスマンです。

「見せる」と「隠す」、どっちがいいの?とかそんなことは決める必要がないし、最近ではデムナ・ヴァザリアなど、その両方を自在に操作することでモノや情報の希少性を高める器用な若手デザイナーも出てきました。ヤリクチとしては「裏原」です。あら、こんなところにも90年代リバイバルの波が…。

話は戻って『裏窓』。ヒッチコックがデザイナーのイーディス・ヘッドに「マイセンの陶器のような、簡単には手に入らない高級品のような存在に見せたい」と依頼して作らせたグレース・ケリーの衣装たち。気品溢れるグレースと背中が大きく大胆に開いたドレス。今から20年前に観た60年前の映画にもかかわらず、まるでファンタジーのような美しさで今も僕の脳裏に焼き付いています。エロスでも経済でもなく、このようなものを総じて僕らは「クラシック」と呼ぶのだと思います。
Satoshi Tsuruta

International Gallery BEAMS Staff鶴田 啓

熊本県出身。1978年生まれ。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻にまったく興味を持てず、飲食店でアルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。新宿・ビームスジャパンのデザイナーズブランドを中心に扱うメンズフロア(当時)に配属となる。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動し現在に至る。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆まで手がける。ワードローブのモットーは「ビスポークのスーツからボロボロのジーンズまで」。趣味は音楽・映画・美術鑑賞、旅行、落語、酒場放浪、料理、服。二児の父。

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