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STORY

僕らが靴を履く理由/戦場のシューズライフ

 ローファーの語源が「 Loafer 」=「怠け者」だという話は昔からよく耳にします。確かに着脱が楽です。アメリカンスタイルのローファーにはかかとの部分にキッカーバックと呼ばれる「つまみ縫い」がついていたりしますね。その部分に反対側の足を引っかけて「手を使わずに足だけで靴を脱ぐ」わけです。うーん、怠け者…。

僕には二人の子供がいます。毎朝、二人を保育園に送り届けるのは僕の日課です。2歳児を抱っこヒモで懐に抱え、6歳児の手を引きながら登園します。二人が通う園は年少組と年長組で園舎がふたてに分かれている為、それぞれの玄関で靴を着脱しなければなりません。朝、急いでいるときなどは、この「2度のシューズ着脱」に手間がかかってしょうがない。ましてや懐には15kgの男児ひとり。重たいわ、足元は見えないわ、手が靴に届かないわ…。カッコつけて編み上げブーツなど履いて行こうものなら、子供を抱えたままひっくり返りそうな体勢でウンウンと唸りながら靴を脱ぐ無様な姿に他のママさんたちの冷ややかな視線集中。朝の保育園昇降口は戦場ですわ。で、僕が重宝しているのがエラスティック・スリッポン。 

 

10年前に買った F.lli Giacometti のサイドエラスティック・スリッポン、13年前にネペンテスで買った Needles 別注 Tricker's のセンターエラスティック搭載フルブローグ。

ローファーほど履き口が広く開いていないので、レースアップシューズのようにスーツスタイルに合わせても違和感なし。靴べらを使えば着脱も楽。セミフレアパンツ、ワイドラペルのスーツにポインテッドトゥも新鮮なバランスです。この日のスーツは ALAN SCOTT。

ワイドなパンツに合わせれば、レースアップシューズと同じ見え方に。

エラスティック付きシューズの代表と言えば、ビスポークシューメーカー George Clevery のモデル「 Churchill 」。足が悪かった英国首相ウインストン・チャーチルの為に作られたという、このイミテーション・シューレース付きのサイドエラスティック・スリッポンは通称「 Lazy Man (怠け者)」…って、いやいや。なんでもかんでも怠け者と呼びやがって!チャーチルもお父ちゃんも、ケッコー頑張ってんだぞっ!って声を大にして言いたくなります。

「 Lazy (怠惰な)」ではあんまりなので、「 Busy Man 」=「忙しい人」に呼び名を変えてみたら?とか。それはそれでセワシナイ、バタバタした感じがするか…。ともかく、着脱に大騒ぎを要しないエラスティックシューズには居酒屋で座敷に上がるときなども含め、色々と救われております。

Satoshi Tsuruta

NEJI Organizer鶴田 啓

1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。2023年フリーランスとして独立、企画室「NEJI」の主宰として執筆や商品企画、スタイリング/ディレクション、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。同年、自身によるブランド「DEAD KENNEDYS CLOTHING」を始動。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。