1980年7月にポパイ創刊から4年後、大人の男の都市型ライフスタイル誌『 BRUTUS 』が創刊された。字を読むのが苦手なボクですら、今でも80年代ブルータスの表紙タイトルの熱量を見ればページを開かずにはいられない。当時中高生だったボクの脳みそはポパイに付いて行くのがやっとで正直ブルータスは兄貴すぎていました。そりゃそうですよね・・。80年代初頭、ブルータスが紹介していた欧米ライフスタイルの世界観って日本には情報すらまるで無く、未知・異次元の価値観のプレゼンテーションだったんですもの。ブルータスちょい前の日本って、かまやつひろしの『我が良き友よ』がレコード大賞な頃ですよ。4畳半・風呂なし・下駄の世界が兄貴の代名詞だったのに、その兄貴達は数年後ニューヨークのロフトでコーヒーを飲み、パリのアパルトマンでプチデジョネを食べ、部屋にはイタリアン・モダンな家具が鎮座する・・・。そんな価値観が始まったんです。ここから20年先まで『生活感&生活臭』はオシャレ都市生活者から排除され、DCブームに乗ったモノトーンのハウスマヌカン達の間では生活感を全く消し去ったクールな接客が義務化されておりました。行き過ぎた生活感排除の先に子供の存在さえ否定する DINKS (ダブル・インカム・ノー・キッズ)なんて流行りもあったくらいなんです。

そして皆様、このブルータスの最初期時代、 early80’S に時を同じくして盛り上がっていたカルチャーがあったんです。それは『角川のハードボイルド映画』。いわゆる小説の映画化物で個人的には大藪春彦がマスト。たいてい主人公は天才猟奇殺人犯で、松田優作、草刈正雄などが主役を務めておりました。彼らが住む超アーバンなマンションはまさにブルータスが提唱するイタリアンモダン家具まみれの部屋で、今見てもむちゃくちゃクールなんです。キーワードはやはり先ほどの『生活感の無さ』これに尽きます。だって世界的指名手配のハード・ボイルド犯のアジトには屋内プール&エットーレ・ソットサスとフロスのアルコランプがあるわけです・・・。
そして時は流れ2008年、スペイン・バルセロナから『 apartamento magazine 』という革新的な雑誌が登場しました。アーティストの部屋を散らかるままにドキュメント調に撮影した、いわゆる都築響一『着倒れ方丈記』『 TOKYO STYLE 』文脈の世界版で、我々人類はかまやつひろしの男のにおーいを奪還するのに30年を要し、遂にこの雑誌をもって成功したのでした。ありのままの人間のカッコ良さの前ではブランド家具や高級ファッションはそれほどプライオリティ高くねーんじゃね?ってことに気付いたのでした。ブランド否定はしないけど・・・。
82年公開の角川映画、草刈正雄主演の『汚れた英雄』の開始28分のシーンを見て欲しいんです。主人公がコーディネートを決めるシーンで収納されたジャケットが回転寿司の様に回ってくる非日常さ、生活感のなさに今見るともの凄い笑いが込み上げてくるんです。当時は羨望のまなざしだったのに・・・。
そして2018年、ボクの収納は段ボール箱。外側にはマジックで内容を明記。大半が『古着』としか書いてないが、文字のクセで箱の中身を記憶している。この収納が所属する文脈はまだ、ない。