Fit in Passport に登録することで、あなたにフィットした情報や、Fit in Passport 会員限定のお得な情報をお届けします。

ページトップへ

STORY

深紅の LIP&TONGUE

2012年のG.Wを過ぎた頃、スロウガン事務所に一本の電話がかかってきた。電話の主は、お世話になっているバーニーズ ニューヨークのメンズ担当のMDからであった。今年、ローリングストーンズは活動50周年を迎える。それを記念し、バーニーズとしてこの10月にイベントを企画したい。既存の取り組み先の中から、ストーンズ好きなデザイナーにコラボアイテム製作を依頼したい、こんな内容であった。ボクはモチロンそれを快諾した。嬉しかった。少々大袈裟かもしれないが、今までのボクの人生の大きな節目、出会い、別れの傍らには、常にストーンズのメロディーがあった様な気がする。そんなボクだから、せっかくオフィシャルで作らせていただける訳だから、ただワッペンを貼ったり、ロゴをプリントするような「さらっとミニマルにセンス良くまとめました感」で終える事なんて考えられませんよね。このせっかくの機会に・・。なので、ボクの中での深紅の火柱のごとく立ち上るストーンズ愛が最高濃度に達している『時期&瞬間』を見極め、その1点を深ーく掘り進める様なボク独自の物作りが始まったのです・・・。
(以下の4つのポイントはボク自身の『好き』な部分をどのように服のディテールに落し込んだのかをまとめた物です。)


(1)ボクの主観的最高濃度期・・・ブライアン・ジョーンズが亡くなってからロン・ウッドが加入するまでの69〜74年。いわゆるミック・テイラーがリードGをつとめていた5年間。
この時期、72年の代表作『 Exile on main st ・メインストリートのならず者』ここ1点に物作りのヴィジュアルを集中することに。

(2)実はこのアルバム『 Exile on main st ・メインストリートのならず者』のレコジャケ、内ジャケ写真は、かの現代写真の父、ロバート・フランクによるものなのです。更に内ジャケ写真の一部分には伝説の写真集『 The Americans 』から数枚借用していることをご存知でしょうか?ロバート・フランクのマーチャンってあまり例がなくというより見たこと無いのでレコード会社にそーっと確認したところ、使用可能アイテムにこのアルバムが含まれれいるので全てOK!とのこと。よって晴れてロバート・フランク撮影の写真よるボクオリジナルのコラージュプリント裏地作りに取りかかった訳です・・・。

(3)皆様、ストーンズの有名なアイコンマークの LIP&TONGUE (唇と舌)が、実はアンディ・ウォーホルのデザインである事をご存知でしょうか?今回のプロジェクトではメタルボタンにこの LIP&TONGUE のモチーフを男子学生服のボタンの様に半立体で表現することを企画し、米国よりオフィシャルで許諾も取れたのです。即、社内で粘土でのイメージ模型を作り、大阪のヴィンテージな学ランボタン工場にて作製を依頼いたしました。

(4)生地は同じくアンディ・ウォーホルの LIP&TONGUE をジャガード織りでの表現を目指しました。20有余年もの間、コムデギャルソンの最も難しい生地を作り続けていた一宮のテキスタイルチームに依頼。1種類の柄を完成させるため12種類の試織を繰り返しました。ウール地は最後に水蒸気で蒸して風合いを出しますが、ここで縦・横の収縮差で柄が歪むんです。織り物なので。この加減の調整と色調整には手こずりました。プリントならいとも簡単なんですけどね。

皆さん、このローリングストーンズスタジャン、当初の生産予定は2色で50着だったんです。通常わずか50着の為に裏地を図案構成から作ったり、ボタンを金型から作ったり、見頃のジャガードの試織を12種作るなど、ビジネス的には完全に暴挙なのです。残った利益はほぼサンプルロットの生産コストで消え去り、型代、金型代でマイナスが出るのは目に見えておりました。アメリカのライセンシー会社との契約でミックとキースの為に4着の完成品を送る事も条件でしたし・・・。

しかし、女神は微笑んだのです。ここでは敢えて書きませんが、広告費に換算したら『億』な出来事が展開直前に起きたのです・・・。

かくして、ローリングストーンズ50周年記念オフィシャルスタジアムジャンパーは完成し、店頭に並ぶ事無く秒速完売、そして製品のない50周年パーティーの日を迎えました。このプロジェクトでボクは完全燃焼しました。口座の資金も燃え尽きました。ただ、作り手として一切妥協せず、極めて私的な趣味性を貫いてもOKな製作の機会なんてそうそう頂ける物ではございません。そういった意味でその夜、ボクは最高の幸せ者になれたのでした・・・。
Manabu Kobayashi

Slowgun & Co President小林 学

1966年湘南・鵠沼生まれ。県立鎌倉高校卒業後、文化服装学院アパレルデザイン科入学。3年間ファッションの基礎を学ぶ。88年、卒業と同時にフランスへ遊学。パリとニースで古着と骨董、最新モードの試着に明け暮れる。今思えばこの91年までの3年間の体験がその後の人生を決定づけた。気の向くままに自分を知る人もほぼいない環境の中で趣味の世界に没頭できた事は大きかった。帰国後、南仏カルカッソンヌに本社のあるデニム、カジュアルウェアメーカーの企画として5年間活動。ヨーロッパでは日本製デニムの評価が高く、このジャンルであれば世界と互角に戦える事を痛感した。そこでデザイナーの職を辞して岡山の最新鋭の設備を持つデニム工場に就職。そこで3年間リアルな物作りを学ぶ。ここで古着全般の造詣に工場目線がプラスされた。岡山時代の後半は営業となって幾多のブランドのデニム企画生産に携わった。中でも97年ジルサンダーからの依頼でデニムを作り高い評価を得た。そして98年、満を持して自己のブランド「Slowgun & Co(スロウガン) / http://slowgun.jp 」をスタート。代官山の6畳4畳半のアパートから始まった。懐かしくて新しいを基本コンセプトに映画、音楽等のサブカルチャーとファッションをミックスした着心地の良いカジュアルウェアを提案し続け、現在は恵比寿に事務所を兼ね備えた直営店White*Slowgunがある。趣味は旅と食と買い物。