各¥145,000+税(インターナショナルギャラリー ビームス)
1879年創業のこのブランド、その見た目は質実剛健な英国靴とも、軽快な履き心地と華やかな洒落っ気が目を引くイタリア靴とも違う、正に重戦車のような面構え。殺人事件の凶器になってもおかしくないような鈍器感。ソールに施された金属製の釘やネジの意匠は工業製品さながら、トリプルソールの重厚感を前に「やっぱりドイツだなぁ」と勝手なゲルマン魂を感じたりするわけです。ただし、このブランド。ドイツの会社ですが、生産はハンガリー。ハンガリー人には手先が器用な人も多いと聞きますが、先の4強に加えてドイツならまだしも「ハンガリーの靴ってなによ?」という馴染みの無さ。
特徴はそのラスト(木型)にあります。サイドから爪先にかけて真下に落ちていく断崖絶壁感。足をいかに美しくエレガントに見せるかという英国ビスポーク(例えば George Clevery のチゼルトゥ)の対極とも言える「箱」のような爪先。インサイドストレート&アウトサイドカーブのクラシックな横ラインと、絶壁な縦ラインの組み合わせが実にユニークなルックスを生み出しています。しかし、天上天下唯我独尊のように見えて実はこのスタイル、ヨーロッパでは「ハンガリースタイル」として古くから認知されているようです。事実、10年ほど前にオーストリアを旅した際、ウィーン市内のはずれにある某ビスポークシューメイカーのウインドウには、(店休日だったので入店はできませんでした)まさしくこの絶壁ラストのサンプルが飾ってありました。また、20年ほど前からビームスでも取り扱いのある1885年創業のルーディック・ライターもウィーン市内に数軒店舗を構えているのですが、ここにも同様のハンガリアンラストを使用したモデルがあります。
こちらは8年ほど前にインターナショナルギャラリー ビームスで購入したルーディック・ライター。
これらに共通しているのが「フルブローグのダービー」というスタイル。ヨーロッパでは絶壁ラストのフルブローグを総称して「ブダペスター」と呼ぶようです。つまり、ハンガリーの都であるブダペスト式。10年前にウィーンで購入したルーディック・ライターの箱にもやはり「 Budapester 」と表記がありました。爪先がストンと垂直に落ちる絶壁ラスト。大きめのパーフォレーションが印象的なフルブローグ。典型的なブダペストスタイル。
前置きが随分長くなりましたが、それらブダペスト式シューズの頂点に君臨するのがハインリッヒ・ディンケラッカーというわけです。日本では異様に見えるこの佇まいも中央~東欧州では由緒正しきクラシックスタイル(≠ピッティスタイル)。ソールに独・ジョーレンデンバッハ社のオークバークタンニンでなめしたレザーを、アッパーに米・ホーウィン社のシェルコードヴァンを採用した素材使いも贅沢です。
厚み1.5cm強!ど迫力のトリプルソールが特徴のハインリッヒ・ディンケラッカー。
世界中のトレンドが似通ってきた結果、どこの国でも似たようなものを作っている現在のファッション産業。はっきりと地域性が感じられるアイテムは随分と少なくなってきたように思います。勿論、これは良い悪いの問題ではなく好き嫌いの問題です。僕は「アメリカ人が握った寿司なんかゼッタイに不味い!」なんてことは別に思いませんが、ただ「江戸前の職人が握った寿司を食べる方がやっぱり美味いし、なにより気分がよい」とは思います。
1978年生まれ。熊本県出身。10歳の頃に初めて買ったLevi'sをきっかけにしてファッションに興味を持ち始める。1996年、大学進学を機に上京するも、法学部政治学科という専攻に興味を持てず、アルバイトをしながら洋服を買い漁る日々を過ごす。20歳の時に某セレクトショップでアルバイトを始め、洋服屋になることを本格的に決意。2000年、大学卒業後にビームス入社。2004年、原宿・インターナショナルギャラリー ビームスへ異動。アシスタントショップマネージャーとして店舗運営にまつわる全てのことに従事しながら、商品企画、バイイングの一部補佐、VMD、イベント企画、オフィシャルサイトのブログ執筆などを16年間にわたり手がける。2021年、22年間勤めたビームスを退社。東京・外苑前のセレクトショップMANHOLE内にある企画室「NEJI」(https://manhole-store.com/neji )の主宰としてバイイング/販売はもとより、執筆や商品企画、コピーライティングなど多岐にわたる活動を続けている。また、クラウドファンディングで展開するファッションプロジェクト「27」ではコンセプトブックのライティングを担当し、森山大道やサラ・ムーンら世界的アーティストの作品にテキストを加えている。
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