いままでこのコーナーにおきまして、アメリカンデニムに無駄な仕様などない! とこれほどまでに熱弁を振るってまいりましたが、今回は唯一どう考えても、どう贔屓目に見ても、到底納得のできないXXの謎仕様をなんと豪華な折り紙を使いながら解説&なぜそれが無駄なのか、私なりの考察を最後に加えさせていただきます。
題して、『あまりに細かすぎて、到底納得のできないXXの名物仕様、それは 隠しリベット&隠しカン止め』 。下の写真のこの部分ですね。

では参ります。
全行程(1)からはじまり、(7)で完成となります。
(1)裁断
ウサギの耳の様な2つの出っ張りがありますね。これを作る為に切り込みを入れる必要があります。この段階で裁断効率が著しく低下いたします。

(2)ポケット口三つ折り&ダブルステッチ
これもウサギの耳のおかげで環縫いミシンが使えません。隠しリベット仕様がなくなった66以降、裏がチェーンになったりし ますよね。うさみみさえなければ、効率の良い2本針の環縫いミシンで一発です。

(3)アイロンで縫い代部分を折り込みます。
昔も今も型を置いてアイロンで折り込みます。

(4)さあ、ここで隠しカン止めの登場です。
ポケットの上端の位置にめがけてカン止めを図の様に左右2カ所落とします。一般的には強度を増す為に打つカン止めですが、この隠しカン止めの場合はポケット口の位置決めが最も重要な任務なんです。ずれてしまえばB品です。手元の印は見えません。

皆様お気づきでしょうか? 隠しカン止めは隠したいのではなく、この状況でのポケ位置の固定&力のかかるポケ角の補強を1度に行っているのです。手間ながらも理由ありですね。
(5)リベット打ち込み
ここでメインイベントのリベット打ち込みとなります。縫い代の中に隠れてしまうややちいさな頭のリベットです。最後に解体写真でご覧いただきます。

(6)パタリとポケットを手前に倒します。
初めてジーパンのポケットらしく見えて参りました。ここで注目なのがポケット角の部分です。(4)で打ち込んだカン止めがポケットを下方に倒してくると歯を向いた様にみえてますね。

(7)一周ステッチ
そしてぐるり一周ステッチをかけます。金属リベットがあるので上に向かってステッチ幅がひろがってしまいます。右ポケにはレーヨン製の赤タブが挟み込まれます。
ようやくこれで完成です!

この隠しリベット仕様を、紙パッチギャラ無しXX表記がなくなる60年代後半までやりつづけました。リーもラングラーもポケットの通常取り付け後リベット補強してますね。リーに至ってはカン止めをX状に打ち込むデザインとなりました。いずれにせよ最終工程で打つだけなので非常に簡単です。下の写真は(5)の実物実写です。

ではここから考察に入ります。なぜリベットを隠さねばならなかったのか?
一般的にはL社の帽子型リベットは中心の突起部分で車等にキズをつけてしまうから。が定説です。これは確実に正解でしょう。しかし、リベットを縫い代の中に隠すだけの為にこんなにめんどくさい事をなぜ半世紀も続けたのでしょうか? ボクならリベットの中心突起の無い金属パーツを開発します。例えばリーのリベットの様な形状ですね。本当に謎です。結局80年代辺りからのポケットはリベットもなければカン止めもポケット取り付け後の落としカン止めです。強度も十分、ここからちぎれた事等ありません。それで十分と気付くまでに80年かかりました。なぜウサギ耳を続けたのでしょうか??
無理にボクが答えるならば最初に衣料品上で補強の為にリベットを使う特許を取得したブランドの意地、この位しか思いつきません。その位無駄な労力なんです。今日、この隠しリベットが有効な仕事をしているのはヴィンテージの見分けの為の象徴くらいな物なんです。
このコラムをお読みいただいている皆様の中で、1950年代、アメリカでXXの縫製オペレーターをされていた親戚を持つアナタ! 是非この謎をおばあちゃまに聞いてみて下さい。目から鱗の秘密が隠れているかも知れません・・・。

















