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STORY

山下裕文さんへの自慢話。


写真左側の『 HOTEL Stella 』はパリ・地下鉄オデオン駅の裏側、ちょうどリュクサンブール公園へと抜ける地味な通り沿いにあるプチホテルだ。これはあまりに懐かしかったので3年前の出張の折に撮った物である。今でこそ三つ星などと自慢気だが、30年前は星など付いてなかった。そんな星なし時代に僕の友人は住んでいた。たしか4号室で、部屋にトイレは無いくせにビデはあった。フタに鍵のかかったアップライトピアノもあった。壁紙(壁布)は黒地に赤い小花柄、天井に照明は無くベッドのランプで光源は全てだった。僕らは100年は内装が変わっていないこの部屋でモダンジャズのレコードを聞きまくった。50年代のポータブルプレーヤーで、蓋がスピーカーになっていてブンブンと歪みまくるのに、なぜか音に不満は無かった。最初に聞いた1曲目はエヴァンスの「 sunday at village vanguard 」のアリス・イン・ワンダーランドだったと思う。今思えばどんなハイエンドなスピーカーよりこの部屋のシチュエーションのほうが断然音が体に滲みこんできた。1泊70フラン(当時のレートで¥1400円)以上の価値はそこにあったように思う。
で、ここからが自慢話です。僕らのアジト、HOTEL Stella の真下にはなんと、レストラン・ポリドールがありました。ウッディーアレンの映画『ミッドナイト イン パリ』に登場した1845年創業のなかなかヴィンテージなお店です。80年代末にはしばしば利用したものです。アントレとしてはウッフマヨネーズやエスカルゴなんかをよく食べてました。メインは名物のブッフ・ブルギニョンがいつものお約束。安かったし観光で来た友人達も連れて行くと皆、喜んでおりました。腹が立たない程度の味ですが・・。また、映画にもあった様にカルチェラタンに位置するこのレストランにはヘミングウェイを筆頭にフィッツジェラルド、詩人のランボーなんかも常連でした。このポリドールには、歴史が長い分、店の設備に2つの伝説があります。1つ目は天井の現役照明がアールデコの巨匠作、そしてもう1つが男用トイレ便器がパリ最古のトルコ式トイレと言われております。ってことはこの同じ便器で僕もヘミングウェイもフィッツジェラルドも用をたしてたわけです。確実に文士と連れションです。山下さん、これ自慢話のクオリティーとしていかがでしょうか?
Manabu Kobayashi

Slowgun & Co President小林 学

1966年湘南・鵠沼生まれ。県立鎌倉高校卒業後、文化服装学院アパレルデザイン科入学。3年間ファッションの基礎を学ぶ。88年、卒業と同時にフランスへ遊学。パリとニースで古着と骨董、最新モードの試着に明け暮れる。今思えばこの91年までの3年間の体験がその後の人生を決定づけた。気の向くままに自分を知る人もほぼいない環境の中で趣味の世界に没頭できた事は大きかった。帰国後、南仏カルカッソンヌに本社のあるデニム、カジュアルウェアメーカーの企画として5年間活動。ヨーロッパでは日本製デニムの評価が高く、このジャンルであれば世界と互角に戦える事を痛感した。そこでデザイナーの職を辞して岡山の最新鋭の設備を持つデニム工場に就職。そこで3年間リアルな物作りを学ぶ。ここで古着全般の造詣に工場目線がプラスされた。岡山時代の後半は営業となって幾多のブランドのデニム企画生産に携わった。中でも97年ジルサンダーからの依頼でデニムを作り高い評価を得た。そして98年、満を持して自己のブランド「Slowgun & Co(スロウガン) / http://slowgun.jp 」をスタート。代官山の6畳4畳半のアパートから始まった。懐かしくて新しいを基本コンセプトに映画、音楽等のサブカルチャーとファッションをミックスした着心地の良いカジュアルウェアを提案し続け、現在は恵比寿に事務所を兼ね備えた直営店White*Slowgunがある。趣味は旅と食と買い物。